教会編 10話 新しい神ギナです。
ファビエ王国に新しく作られた教会は異様な雰囲気に包まれています。
「なるほどな。クランヌ様が送り込んだ魔族が入り込んでいるのは明白だ」
マジックによると、魔族特有の魔力というのはわかりやすいそうで、教会にその魔力が充満しているそうです。
「ふむ。送り込んだ魔族は貴方の事を知っているのですか?」
「そりゃ、知っているだろうな。俺は魔王四天王筆頭だったからな。教会に入った瞬間、殺気を向けられてるぜ」
確かに、教会に入った瞬間から、私にも殺気を向けてくる馬鹿はいますね。
「俺もそうだが、お前の方が恨まれているかもしれないな」
「はて? どうしてですか?」
「お前は自分が何をしたのか忘れたのか? 魔族を一度皆殺しにしたんだぞ? 恨まれていないと思ってるよう方が不自然だろうが」
まぁ、そう言われればそうでしょうか?
私は教会の中を見回します。魔族が変装してるであろう神官達は私を睨みつけていますが、それ以外の神官は何やら荷物を奥の部屋に運んでいるようです。
「どうやら、ネリー様が教会と敵対すると決めた事で、この教会が取り潰しになると思ったのでしょうね。金目の物を別の教会に持ち運ぼうとしています」
ならほど。
コレらが崇拝する神はお金が好きそうでしたけど、やはら子は親に似ると言う様に、信徒達もお金が大好きなのですね。
教会入り口で立っている私達を見て、1人の神官がが近付いてきました。
どうやら、コレは魔族ではなさそうです。
「これはこれは……新聖女様じゃないではありませんか。大いなるアブゾル様の神託を聞いて、
神託ですか。これは使えますね……。
彼が言ったセリフをそのまま使わせてもらうとしましょう。
神様の神託が降りたと。
私はカチュアさんな合図を送ります。
カチュアさんも私の考えた事を察してくれた様で、レーニスちゃんの前に出ました。
「魔王が神託とは何を滑稽な!!
カチュアさんは教会全体に聞こえる様に大きな声で叫びます。
「な、なんだと!? あ、アブゾル様が魔王だと!!?」
カチュアさんの言葉を聞いた神官達は、一斉にこちらに敵意剥き出しの目で睨みつけてきました。
私はレーニスちゃんの前に立ちます。
「私達は、
私の名が出た瞬間、教会内が騒めき出しました。
それはそうですよね。
私は教皇を殺した大罪人らしいですから。
「このお二人が、真なる魔王アブゾルを討つために、まずはこの邪教徒が集まるこの教会を救いに来たのです!!」
今のセリフを噛まずに言うなんて、カチュアさんは凄いです。
しかし、カチュアさんの素晴らしいセリフを聞かずに、神官達は私を見て顔を青褪めさせています。
そういえば、ここにいる神官の顔は見覚えがあります。
「あぁ……。つい先日会いましたね」
「ま、待て……、貴様は何を言っている? 救いだと? この世界の神は唯一神アブゾル様だけだ!! 貴様らこそ邪教徒ではないのか!! そもそも、お前は人殺しだろうが!!」
まぁ、素直に聞いてくれれば良かったのですが、聞くわけありませんよね。
本当に面倒な方々です。
簡単にギナを信じてくれれば……。
無駄に死ななくてよかったのに……。
いえ、いけませんね。
まだ、殺してはいけません。
殺すよりも先にやる事があります。
私はレーニスちゃんの隣に立ち、背中をつつきます。これが合図です。
レーニスちゃんは、サクラさんから預かった、映像用の魔道具を起動させます。
この映像用の魔道具と言うのは、何もないところに映像? とやらを浮かび上がらせるモノだそうです。
この世界にはない物らしく、きっと神官達も驚くはずです。
レーニスちゃんが祈るような真似をすると、空中に老人が浮かび上がります。
ふむ。
髭爺と違い、威厳のありそうな顔をしています。とても、人形とは思えません。
『我が名は神ギナ。我こそが、この世界の唯一神。アブゾルは神の名を語る魔王だ!!』
いきなり浮かび上がった老人がいきなりこんな事を言い始めたら……、胡散臭いですねぇ……。
私もこの映像とやらを何度か見ましたが、やはり胡散臭いです。
しかし、普段から神アブゾルを信じている神官達には、この上ない程有効なのか、「皆信じるな!! 私達が信じる神はアブゾル様だ!! 貴様らが作り出した
反抗しても無駄です。
何人かは、挙動不審になっていますよ?
クスクス……。
迷っているのは面白いです。と、その時、マジックが私の頭に手を置きます。
「レティシア、魔族がどいつか見分けがついたぞ」
ふむ。
確かに一番前にいた神官は、ギナを見て映像とハッキリいました。
この世界には映像などというモノはないはずなのに、どうして知っているのですかね?
あ、魔族は映像を知っていたのですかね?
それを聞くと、マジックは「何度か俺も見た事がある」と言っていました。
という事は、アレは確定ですね。
さて、ここでカマをかけてみましょうか?
「おかしいですねぇ……。その
ついつい、口角を釣り上げてしまいます。
「な、な、な……。それは、魔族に伝わ……」
「何故、魔族を忌み嫌う教会の貴方がたが、魔族に伝わる映像とやらを知っているのですか? まさか、魔族と通じていると?」
私の言葉で神官達に動揺が走ります。
「だ、黙れ!! みんな!! 忘れたのか!! こいつは、仲間を殺した狂人だぞ!!」
誰が狂人ですか。
私は必要か必要でないかを選んで殺しているだけです。
「まぁ、ギナ様はこうして姿を現し、神託をくださいました。貴方がたの信じる魔王……いえ、邪教の貴方がたにしてみれば、神でしたか? それを呼び出して、姿を現させて何かを言わせてくださいよ」
「そ、そんな事が出来るわけがないだろう!!」
「何故ですか? 貴方がたは都合のいい時に神託を得ていたじゃないですか。私を拘束しようとした時も神託が運タラ言っていましたよね?」
「そ、それは……」
クスクス。
言い返せませんよね。
自分で言っていても胡散臭いです。
しかし、実際の所、神官の中には混乱している人もいるそうです。
「レティシア。これから、どうするんだ?」
マジックがコッソリ聞いてきます。
「……殺しますよ。逆らう者はここで生かしておく必要はありません」
私は勇者でも、正義の味方でもなんでもありません。
気に入らなければ殺す。それだけです。
「最後通達ですよ。アブゾルを信じて、ギナ様を信じられない者は、ここで神敵として殺します。脅しでもなんでも無いですよ。この前の王城での私の行動を見たでしょう? 私は殺すと決めれば確実に殺します」
私はエレンを握り締め神官達を睨みます。
おっと、その前に……。
「カチュアさん。レーニスちゃんを外に出しておいてください」
「はい」
私は横目でカチュアさん達が外に出るのを待ちます。
「レティシア。どうする? 全員殺すか?」
「いえ。わざとらしく何匹か逃がしてください」
「どうしてだ?」
「逃がす神官には伝言役をやってもらいます。もし、神『ギナ』の事を信用するというのならそれでも構いません。その時は、どうせ枢機卿に殺されるでしょうし」
私の予想では、枢機卿はアブゾルを崇めているのではなく教会のトップに固執しているのでしょう。
だからこそ、教皇の死を利用してでも、私の身柄と勇者であるウジ虫を欲しがったはずです。
「おい。お前の推測が間違っていなかったとしてよ、そいつがギナを信じたらどうするんだ?」
「それはあり得ません。枢機卿はアブゾルの枢機卿なのですから。ギナを崇めるとなれば彼は失職する筈です。さて、始めましょうか?」
私は目の前の神官を首を斬り落とします。
おそらくこいつは魔族でしょうが、どうでもいいです。血は赤いみたいなので問題ありません。
私は血の滴る剣を振り、血を神官達に飛ばします。
「マジック。神官を殺してください。ただし、件の同族だけはまだ生かしておいてください」
私は近くにいた神官を斬り殺していきます。
マジックには、敵対心の無い神官達を気絶させるように頼んであります。
私には手加減というモノがありませんので確実に殺してしまいますからね。
私は目の前の神官を斬り殺そうとします。が、私の剣を受け止めるものがいました。
ん? 彼の目は何かが違いますよ?
「神官達は逃げろ!! ここは、俺が抑える!! お前達は他の国の教会にこの事を伝えに行け!!」
はて?
この人は強そうですよ。
神官は私に斬りかかってきます。
しかし、遅いです。
私が彼の剣を掴んで止めると、驚いた顔をして止まってしまいます。
「馬鹿な!! 俺達は枢機卿に選ばれた神兵だぞ!! こんな小娘に剣を止められるなんて!!」
私は、神兵とやらのお腹を思いっきり殴り、気絶させます。
「おい、お前、ちゃんと手加減できるじゃねぇか」
「当たり前です。私を何だと思っているのですか?」
教会を制圧した私達は、生き残った数人を拘束します。
私の目測通り、何人かは無事逃げ出したようです。
魔族の神官は、マジックによって気絶しています。
「どうして殺すように言わなかったんだ?」
「はい。こいつ等から情報を得ようと思いまして」
「情報?」
そうです。
私は教会全てを滅ぼすつもりです。
だから、枢機卿の事を知らなければいけません。
私は気絶させた魔族や生き残った神官とお話をします。
「で? 貴方達は魔王アブゾルを信じるのですか? もし、信じるというのであれば、ここで死んでもらいます。先程も言いましたが、これは脅しではありませんよ? 私にとって、アブゾルは敵です。それを信じる者は、邪教です。敵です。殺すべき相手です」
「待ってください!! 私達は、神を信じてきただけです。どうかご慈悲を!!」
慈悲ですか。
……面白い事を言いますね。
「慈悲とは何ですか?
私は慈悲とほざいた神官を蹴り飛ばします。
「おい!! レティシア!!」
ん? マジックが焦っていますね。
私は冷静ですよ?
少しだけ、カチンと来ましたけど、別に殺すつもりはありません。
「そうだ。面白い事を考えました。マジック。本当の姿を見せてください」
「な!?」
私は、魔族でない神官の髪の毛を掴んで持ち上げます。
「こ、こんなの勇者のする事じゃない……」
「へぇ……。ならば勇者タロウが行った行為は勇者の所業だったのですか?」
「な、なに?」
「女性を弄び、用済みになれば殺す。これが勇者の所業ですか? 教えてください。高名な神官様?」
「そ、それは……」
答えられるわけがありません。私が行っているのは、殺戮行為。しかし、その矛先は教会だけに向いています。
それに比べて、ウジ虫の所業はどうですかね?
私と同じ殺戮行為。そして、人間の尊厳を奪う行為。尚且つその対象は無差別。
どちらが、勇者の所業を逸脱しているかは考えなくても分かりますよね。
どっちもどっちと言われれば、それまでですが……。
「神ギナ様は魔族との共存を望みました。そしてマジック……」
私は合図をしますが、マジックは渋っています。
「マジック?」
私は笑顔でマジックに視線を移します。
早く、変身してください。
「わーったよ」
マジックは、魔族の姿へと変身してみせました。
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