教会編 11話 真実を話しましょう


 魔族の姿になったマジックを見て、生き残った神官達は顔を青褪めさせています。

 しかし、今のマジックの姿は……。

 黒い翼に肌も浅黒いです。


「はて? 貴方はそんな姿でしたか?」

「いや、俺は人間に近い姿が本当の姿なんだ。これは分かりやすく、魔族としての特徴を魔法で出しているだけだ」


 なるほど。

 それで魔族の姿になるのを躊躇っていたのですか……。


 そう考えれば紫頭を連れてきた方がよかったですかね?

 紫頭は、最近は人間のふりをした姿をしていますが、元々は羽も角も生えていました。


「ま、魔族!? 魔族を王都に連れ込むなんて、やはり貴女は狂人です!! 勇者では決してありません!!」


 ふむ。

 面白い考えです。


「姫様は、魔族である紫頭……、いえ、ケンを側近にしていますよ? ファビエ王国が魔族や亜人に偏見を持たない国だと、先日、姫様も宣言しましたが?」

「だ、黙れ!! この国の女王陛下も魔族に魅了……がはぁ!!」


 あ、ついつい蹴ってしまいました。


「クスクス。姫様の悪口を私が許すとでも? 別に生き残っている神官は数が少なくてもいいんですよ? 貴方を見せしめに惨たらしく殺しましょうか?」


 私がナイフを取り出し、神官の首に押し付けると、神官の股間が濡れていました。

 むぅ……。臭いです。


 神官は怯えながらも、マジックを指さしこう言います。


「し、しかし、これで証拠が出来ました。アブゾル様が魔王というのであれば、魔族を滅ぼせとは言わないはずです!!」


 まぁ、想定内の言葉ですよね。

 でも……。


「そんな事はありませんよ。魔王アブゾルにとって、魔国エスペランサの王、クランヌさんは裏切り者なんです。アブゾルにとって、エスペランサの魔族が邪魔なんですよ」

「し、しかし……」


 まだ、何かを言いたいのでしょうけど……。もう逃がした神官も町の外に出た頃でしょう。


「マジック。神官に化けている・・・・・魔族はどれですか?」

「ん? こいつ等だ」


 私は魔族の一人の首を斬り落とします。

 首が無くなった魔族はその場で砂みたいな何かに代わってしまいました。


「これが魔族の死なんですか?」

「い、いや。魔族にも種類がいてな……。こいつは、そういう種族だったんだろうな。しかし、いきなり殺したな……」


 生き残った神官達の顔が青褪めています。

 まぁ、まさか、自分達の仲間の中に、魔族がいたとは思ってもいなかったのでしょう。


「さて、生き残ったこいつらをここで殺しましょうか」

「なんだと!?」


 これは打ち合わせになかったのでマジックも驚いています。

 まぁ、生かしておいてもいいのですが、教会の人間は虫唾が走るので殺してしまいたいんですよね。


「ま、待て!!」


 はて?

 いまさら命乞いですか?


 ……と、この人は、確か神兵と言って少しだけ強かった人です。

 体は振るえている様ですが、神官達を守ろうとしています。


「狂人よ。私一人の命で、神官達を助けてくれ……」


 私は考えます。まぁ、別に殺さなくてもいいのですが、少しだけ意地悪しましょう。


「助けてくれと言いながら、私を狂人扱いですか? 全員殺してくれと言っているのですか?」

「ち、違う!! 非礼は詫びる。勇者よ。お前に正義の心があるのなら、神官だけは助けてやってくれ!!」


 正義の心ですか……。

 生憎そんなものは持ち合わせていませんが、少しだけ考えてあげましょう。


 ……ふむ。この人達を助けるメリットはありますかね?

 まぁ、助ける助けないは後で考えるとして、聞く必要のある事だけを聞いておきましょうか。


「貴方達は、アブゾルを裏切る事が出来るのですか?」

「な!? 貴様!!」


 神兵は驚いているようです。

 しかし、不思議なモノです。

 助けてくれという、こちらに何のメリットの無い事を言いつつ、アブゾルを裏切る事は出来ないとは……。


「落ち着いて下さい。私達としても、信じる神が違う邪教徒を野放しにするつもりはないのですよ。ついでですが、そこに拘束している数人は殺しますけどね」


 私はマジックが分けておいてくれた魔族を指さします。


「な!? その神官達も助けてやってくれ」

「それは出来ません。マジック。ソレの真の姿をさらけ出させる事は可能ですか?」


 マジックは一人の神官の髪の毛を掴み上げます。


「あぁ。今からこいつに魔力を注ぎ込む。魔力を注ぎ込まれたら人間には苦痛が襲うが魔族の場合は回復する」

「回復?」

「あぁ。魔族にとって変化の魔法は体が損傷しているようなものなんだ。そこで回復魔法を使ってやると、魔族の体が回復する。変化の魔法を使っている場合、変化による損傷を治してしまうので、変化の魔法を維持できなくなる」


 はて?

 という事は紫頭も?


 神兵は私とマジックの会話を聞いて、混乱している様です。


「ちょ、ちょっと待ってくれ。今のお前達の話では、その神官達が魔族と言っているようなものだぞ?」


 私は神兵に視線を移し、溜息を吐きます。


「そう言っているのですよ。貴方達には、アブゾルの真実を話しましょう。それを聞いたうえで、信じるかどうかを決めてください」


 私がそう言うと、マジックが神官に魔力を流し込みます。

 魔力を流された神官は、黒い霧に包まれていきます。

 マジックが掴んでいた筈の髪の毛は、魔族特有の角に変わっています。

 肌が紫色の、悪魔のような見た目でした。


「こいつは、ハヤイの所の元・部下だな。あのバカ、自分の部下の教育が出来ないのか?」

「ハヤイは馬鹿そうなので仕方ありません。それともハヤイ自身が裏切っているとか?」


 私がそう言うと、マジックは溜息を吐きます。


「お前という恐怖を直接味わったアイツがそう簡単に裏切るかよ。今も夢にお前が出てきて怯えているそうだぞ」

「私を勝手に夢に出さないでください。気持ちが悪い」

「俺に言うなよ……」


 さて、茶番はこの辺にして、まずはこの魔族を殺しましょうか。


「マジック。ソレを起せますか?」

「あぁ? 何故、起こす必要がある?」


 ふぅ……。この程度の事も分かりませんか?


「苦しめてから殺すに決まっているでしょう。私は善人じゃなく、狂人なのですよ?」


 私は神兵に視線を向けそう言います。神兵は気まずそうに俯いています。


「ここで殺すのか?」

「え? ここじゃダメですか?」


 私としては、ここにいる人達に惨たらしく殺す様子を見せつけるつもりだったんですが……。


「俺としては、情報を吐かせるだけ吐かせてから殺したいんだが?」


 ふむ。

 確かにマジックの言う事もわかります。


「分かりました。それならば、あの部屋に連れて行きましょう」

「あぁ……。あの趣味の悪い部屋か……」


 趣味が悪いとは酷いです。

 あの部屋は、ウジ虫をいじめる最高の部屋だというのに……。


 私達は、魔族を拘束したまま神官達と神兵を連れて教会の外に出ます。

 教会の外では、カチュアさんとレーニスちゃんが待っていました。


「俺達だけでは、この人数を城まで連れて行くのは面倒だな。レティシア。ケンをここに呼ぶまで、神官共を見張っておいてくれ」

「分かりました」


 私は、神官達の前に座ります。

 神官達は、私を見るだけで怯えている様です。

 私は無言で神官達を見つめます。すると神兵が私に話しかけてきます。


「枢機卿はあんた達ファビエ王国を異端者だと言っていた。それに、アブゾル様を信じない愚か者はこの世界に必要ないとも言っていた……。あんたは、アブゾル様の真実を話すと言っていた。まるで本物のアブゾル様を見た事があるような口ぶりだったが……」


 ふむ。良い所を突いてきますね。

 まぁ、本当の事を話したところで信じるとも思えませんが、話しておいて損はないでしょう。


「見るどころか会いましたよ。私がアブゾルを殺しました」


 自分達の信じる神を殺害したという女をどう思うでしょうか?

 戯言と一蹴されるのが普通だとは思います……が、私が、ここで嘘を吐く必要もないと思われるのか……。


「そうか……。思った事はあるんだ。神とは何なのかを……」


 この神兵は、聖女であるエレンが自殺した後の教会のやり方に疑問を持っていたそうです。

 神兵や神官達の中には、エレンの境遇に同情の目を向ける者も少なくなかったそうです。

 神兵の名前はセーリオというらしいのですが、彼もその一人だったそうです。

 彼は枢機卿に直接意見が出来る立場だったそうで、枢機卿にエレンの事を聞いてみたそうです。


 枢機卿は「あの者は聖女を詐称していた、罪人だ」と冷たく言い放ったそうです。

 セーリオさんはここで更に疑問が生まれたそうです。


「あんたも知っているとは思うが、エレン嬢は勇者タロウが見染めた聖女で、教会が都合よく聖女認定していた筈。それなのに詐称とはどういう事だ? という疑問はあった」


 成る程……。


「エレンの事に関しては、枢機卿の独断でしょう。さて、貴方達に真実を話しましょう」


 私は、アブゾルが話していた内容と私達が作り上げた偽物の神を説明します。

 私の話を聞いて、神官達は、顔を青褪めさせます。


「さぁ。改めて聞きましょう。クズの様な神アブゾルと作られた仮初の神ギナ。どちらが神に相応しいですか?」


 私の出した選択肢にすぐに答えられる者はいません。

 暫く、神官さん達を見ていると、紫頭が兵士を連れてやってきました。


「まぁ、時間はたっぷりあります。ゆっくり考えてくださいね」


 神官さん達は、お城へ兵士さんに連れていかれます。

 カチュアさんとレーニスちゃんも一緒にお城へと移動しておいてもらいます。

 ここから先は、見せる事が出来ないですからね。


 私は、笑顔で拘束された魔族の下まで歩いて行きます。


「目を覚ましていましたか」


 拘束された魔族達は、私を睨みつけていますが、まだ自分の立場が分かっていないようですね。


「がぁ!!」

「自分の立場が分かっているんですか? 貴方は今から、死んだ方がマシなほどの拷問を受けます」


 私の言葉に、魔族は少しだけ怯えた目をします。


「あ、安心してくださいね。私はウジ虫を痛めつける為に死ににくい場所を痛めつけるに慣れていますから……」

「な……た、助けてくれ……」


 助けてくれ? あぁ。命乞いですか……。

 私は笑顔でこう言います。


「助けません。貴方は、私とこれから楽しみましょうね?」


 魔族は、私の笑顔に恐怖し泣き叫びます……が、今から泣いてたら、これから大変ですよ?

 もっと酷い目に遭うんですからね……。

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親友が酷い目に遭わされたので全てに復讐します。 ふるか162号 @huruka162

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