教会編 9話 神を偽りましょう。


 紫頭のいい案があると言ったので、それを聞く事にします。


「クランヌ様。ブレイン様から聞いたのですが、神をレティシアが殺した後、クランヌ様が復活した後に、反乱を起こした馬鹿が現れたと聞きましたが、本当ですか?」

「あぁ……。そうだな、私も復讐者……いや、レティシア嬢だったな。彼女のおかげで神の呪いから解き放たれた。実は封印が解けた時点で呪いが解けているのは気付いていたんだ」

「はて? それはどうしてですか? 反乱を起こした魔族を処刑して気付いたんじゃないんですか?」

「あぁ。そもそも、レティシア嬢と戦った時の姿は神の力を無理やり与えられた結果だった。封印が解けた時、私の姿は今の姿に戻っていた。今まで、何度か勇者に殺された事はあったが、いつも前の姿で生き返っていたんだ。それなのに、今回は元の姿のまま封印が解けた」


 元の姿のままですか……。


「つまり、確信したのは魔族を処刑した後であり、その前から呪いが解けていると思ってはいたという事ですね」

「あぁ。もし、呪いが解けていないと思っていたら、反乱を起こした魔族を処刑なんてしないさ」


 もともと、生き返るのであれば処刑などしても意味がないので、今まで反乱を起こした魔族は幽閉していたそうです。


 しかし……。


「どうして、その魔族は反乱など起こしたのでしょうね?」


 いくら死んでも生き返って再び殺されるために戦う。聞いている限り地獄と変わりないと思うのですが……。


「まぁ、簡単な話だ。奴等からすれば、神の意思に従って死んでも生き返る戦いの方が、充実していたんだろうな」


 はて?

 どう考えても嫌な生き方だと思うのですが?


「貴方が死にたがっていた事は知っていますが、魔族には、貴方以外にも自殺願望のある者がいたんですか?」

「あぁ、その事もちゃんと伝えなければな。私は自殺願望があったわけじゃないさ。ただな、いつまでも続く地獄というのを終わらせる方法がそれしか思いつかなかったんだ。ちなみに、奴等も自殺志願者じゃないぞ。アイツ等は、圧倒的な力で人間を好きに殺せ、下手に死んでも生き返って再び殺せる。そんなバカみたいな生き方が好きだったんだ」


 そんな人達がいるのであれば、その連中を利用するという事ですね。


「なるほどな。ケンが言いたいのは、そいつ等を利用するという事か……」

「はい。クランヌ様には少し無理を言ってしまいますが、これからも出てくるであろう、神の意志に忠実な馬鹿な魔族を適当にあしらってほしいのです。きっと、アイツ等はそのうち勝手に集まって大きな組織を作り出すでしょう。そして……。そいつ等と教会を同じと考えるのです」


 はて?

 同じと考える?

 何を言っているか分かりません。


「いくら神の意志に忠実な魔族がいるとしても、それが教会と結びつけるのは無理がありませんか?」

「確かにそう思うだろうな……。だが、もし、魔王がアブゾルならどうなる?」


 はい?

 紫頭は何を言っているのでしょう?


 魔王はクランヌさんであり、アブゾルは神です。


 紫頭は何を言っているのでしょうか?

「魔王を名乗るのは、もう居なくなった神アブゾルです」

「ケン? 何を言っているの? 神アブゾルはもういないのよ?」


 姫様が紫頭にそう言います。

 そうです。髭爺は私がもう殺しました。

 私と姫様が首を傾げていると、サクラさんが拍手をします。


「いいねぇ。もう、居ないんだから名前を使っちゃえばいいって事でしょ? それ採用」


 あぁ、そういう事ですか。

 サクラさんと私が納得していると、クランヌさんが腕を組んで難しい顔をしています。


「アブゾルは不味いんじゃないのか? 教会が黙っているとは思えん」


 それもそうです。

 教会の連中は、今でもあの髭爺が神だと思い込んでいるんです。


「はい。そうでしょうね……。だから、クランヌ様の反抗勢力に「アブゾルが真の魔王で、クランヌ様は偽物だった。アブゾルは偽りの神を名乗ってもいるが、本当は教会を使って世界を征服しようとしている」とでも噂を流せばいいんです。あいつ等は、先の事を考えられない馬鹿ですから、きっと信じるでしょう」

「神が魔王か……。確かに間違いではないな。だが、一つだけ不安はある。人間にだって神を信じていた者もいる。その神に救いを求めたものもいる。そんなものまで、敵に据えるのは気が重い」


 クランヌさんにとって人間は敵であり、神は恨むべき者だったはずなのに、その神を信じる者にまで気を遣うとは……とても優しい人です。


「そうだね……。とても良い案だと思うから、私も協力してあげるよ」


 うん?

 サクラさんが私を見ています。

 私は嫌ですよ? 

 神になるなんて面倒くさいです。


「私としてはレティシアちゃんが本当の神だって言うのが一番いいのだけど、レティシアちゃんは嫌でしょ?「嫌です」はぁ……。私が良い物を用意してあげるよ。見た目は威厳があるからきっと神と信じるはず。少し待っていてね」


 そう言ってサクラさんが光の中に消えます。数分後、サクラさんが優しそうなお爺さんを連れてきます。


「その人は誰ですか?」

「これは人じゃないよ。人形なんだ」


 はて?

 人形?

 まるで本物の人みたいです。


「コレを神に据え置くんだよ。これは、『ホムンクルス』といってね、人間と変わらない見た目の魔道具なんだよ。魔力を流し込む事で、まるで生きているように動かす事ができるんだよ。コレの動きと話し方はクランヌ君が設定してくれる?」

「私か?」

「うん。君が魔王を名乗るのは嫌なのはわかるけど、この中で威厳のある行動をとってきたのは間違いなく君だ。ネリーちゃんも女王としてがんばってはいるけど、何百年も魔王として君臨した君にはどうしても適わない」

「そういう事ならば、喜んで承ろう。しかし、魔王の次は神か……。ここまで来たら、楽しんでやってやろうじゃないか」


 ふむ。

 クランヌさんなら、立派な神を演じてくれるはずです。


 それから一ヵ月が経ちました。

 

 ホムンクルスという名では神らしくないので、仮初の神の名をギナと名付けました。


 声はクランヌさんでは若すぎるので、魔族のお爺さんに声を担当してもらう事になりました。


 これで、見た目も声も完成しました。


 ギナの映像をいつでも再生できる様に、映像用の魔宝板に記憶させて、カチュアさんに持ってもらいます。

 これで仮初の神を布教する準備が出来ました。



 今日はレーニスちゃんが聖女に任命される日です。

 リチャードさんには、事前に連絡をして、レーニスちゃんにも詳しく話しておきます。

 レーニスちゃんは快くこの話を受けてくれましたが、リチャードさんはレーニスちゃんの事を心配して反対していました。

 しかし、私が全力で守ると約束した事で、リチャードさんも納得してくれました。

 そして、レーニスちゃんには私の魔力を注ぎます。

 普通は魔力を他人に流し込むと苦痛を伴うのですが、なぜ私の魔力の場合は問題ないようでした。

 それにしても、なぜ私の魔力で聖女になるのでしょう?

 その答えはサクラさんが教えてくれました。


「レティシアちゃんは、もう既に神の領域に到達しているからね……。もう、神族と何も変わらないんだよ」


 はて?

 意味が分かりません。



 レーニスちゃんが聖女の力を発現したと聞いた教会は、リチャードさんにレーニスちゃんを渡すようにと要求してきたそうです。

 リチャードさんは「レーニスは、既に新しい勇者と共にある」と拒否したそうです。すると異端と決めつけられ教会に出頭するように要請があったそうです。


「本当に教会は救えないわね。リチャードさん、安心してください。貴方達は私が守ります」


 姫様は、すぐに孤児院の子供達とリチャードさんをお城に避難させます。

 そして、教会が何を言ってきても、まったく相手にしなかったそうです。


 そして教会の要請を邪魔したとして、枢機卿から再び書簡が送られてきたそうです。

 今度は、リチャードさんを渡せと書いてあったそうです。

 しかし、教会の要求を飲む必要はありません。


「教会が、こういう反応してくるのは、想定内ね。レティ。あの作戦を実行しましょう」


 姫様にそう言われたので、私は旅の準備を始めます。


 そして、旅立ちの日。

 お城の大門の前まで姫様が見送りに来てくれます。と言っても、最初の目的地はこの国の教会です。

 せっかく潰してやったというのに、性懲りもなくまた教会を建てたそうです。

 よく、この国で教会を建てようと思ったものです。


「レティ。王都の教会の神官達全てを殺す前に、まずは打ち合わせ通りにしてね。クランヌ殿が上手く誘導した魔族が教会に紛れ込んでいる筈だから……」

「分かりました」


 私は、いつもの服から、勇者っぽい服に着替えます。

 そして、教会へと向かいます。


 私の仲間は、戦闘メイドであるカチュアさん。聖女であるレーニスちゃん。そして、魔国エスペランサから派遣された、不愛想な剣士マジック。

 魔国エスペランサは、クランヌさんが治める魔族を主体とした国です。


「ったく。なんで俺が……。ブレインの野郎覚えてろよ」


 マジックさんは物凄く不満そうにしています。

 しかし……。


「まだ、ぶつくさ言っているんですか? 鬱陶しい」


 私が睨むと、マジックは少しだけ声を小さくします。

 このまま、構っても鬱陶しいので、放っておきましょう。


「さて、王都の教会へと向かいましょう」

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