番外編 タロウ編 1話 俺が勇者だ
俺は、無堂島(むどうじま)太郎。日本でしがないサラリーマンだった。
いつも通り会社に向かっていたのだが、その日は、やけに会社に行くのが嫌な日だった。
「はぁ……。今日は会社に行く気が出ないな……。休むか……」
俺は会社に電話して、家に向かい引き返そうとした。
その瞬間、俺は光に包まれ、目を閉じる。
「な、なんだ!?」
しばらくして光が止むと、俺は目を開く。
「おぉ!? 勇者様が召喚されたぞ!!」
勇者?
俺が勇者だと?
そうか。これは異世界召喚だな。
ライトノベルが好きだった俺は、一瞬で理解したね。
まさか、俺が勇者として異世界に召喚されるとはな。
勇者として召喚された俺は、今まで味わった事のないほどの贅沢と好待遇で歓迎された。
今まで、そんな思いをした事のない俺なら、それだけでも充分に満足しただったのだが、ネリー姫という、
俺が召喚されてから数ヵ月は、魔王を倒す為に訓練ばかりしていた。
毎日兵士に鍛えられて、最初は痛い目に遭ったが、そのうち俺の方が強くなっていった。
今思えば、この時が一番充実していたかもしれない。
俺の仲間は美人が多く、俺に抱かれるのをいつも喜んでいた。
訓練で疲れた体と心をいつも癒してくれた。
訓練が休みの時には、城のメイド達を抱く事もできた。
中には断る者もいたが、そんな奴は殺してもいいと国王に言われていた。
だから、俺は白の中でも好き勝手出来た。
しかし、ネリー姫と御付きのメイドには手を出せなかった。
レッグ=バートン。
あの忌々しいおっさんが姫とお付きのメイドを守っていたからだ。
ある日、ネリー姫に言われた。
「私と婚約? そうね……。貴方が魔王を倒して来たら、その時はタロウの妻として婚約しましょう。ただし、魔王を討伐するまでは、私及び、私の息がかかったメイドに指一本触れる事だけは許しません」
生意気な事を言いやがる。
たった一度だけ力ずつで押し倒そうとしたせいで、彼女の中の俺の評価が一気に落ちてしまった。
仕方がない……。
俺は、いや、俺達は魔王を倒す為に旅に出た。
一度旅立った手前、城に戻れなかった俺達は、仲間三人と夜を過ごそうと宿に向かっていた。
その時、一人の魔族と出会った。
町の中に魔族だと!?
警備兵共は何をしていた!?
俺達は戦闘態勢に入った。
俺達には負けはない。そう思っていた。
戦士ソレーヌは、ここから遠く離れた国の姫だが、剣技は俺並みに強く、武闘家アルジーはとある国で開催していた武闘大会の覇者。魔導士ジゼルは魔導王と言われていた魔女だ。
絶対負けるはずがない。
しかし、俺達はその魔族に手も足も出なかった。
ま、まさか……これが魔王!?
こんなのを倒せってか?
魔王は俺達を冷めた目で下し、去っていった。
俺達は宿で傷を癒した後、話し合う。
「あれが魔王か?」
俺がそう言うと、ソレーヌが表情を暗くした。
「違うのか? ソレーヌ。何か知っているのか?」
「えぇ。魔王は人型と教会の教皇が言っていました。あれは人型ではなかった。という事はあれは魔王じゃないという事よ」
ソレーヌの言葉で俺達は黙ってしまった。
あれ程の強さで魔王じゃないとなると、魔王の強さはどうなるんだ?
俺達は自信を失ってしまった。
王都で出会った魔族に敗北してから、更に数か月たった。
俺達は、旅に出る事もなく、王都で楽しく過ごしていたが、ある日、ネリー姫から呼び出しがあった。
俺達は渋々国王とネリー姫の元へと向かった。
呼び出された理由もなんとなくわかる。
ネリー姫の口から「タロウ? いつになったら魔王討伐に出かけるの?」と嫌味を言われる。
国王も、ネリー姫には何も言えないようだ。
それから毎日のように嫌味を言われた。
その数日後、俺達は旅に出た。
魔獣程度なら倒す事は可能だが、どれだけ努力をしても、あの魔族と魔王に勝てると思えなかった。
どうするか悩みつつ、旅の途中で立ち寄った町であの女に出会った……。
エレン。
町を壁で囲まれたちんけな町だったが、あの女だけは別格だった。
エレンはいつも小汚いチビと一緒にいた。
俺がエレンに声をかけようとすると、チビがいつも邪魔をしてきた。
何度、殺してやろうかと思ったか。
しかし、俺は勇者だ。
ムカつくとはいえ、こんな子供を殺してしまえば、俺の評判に傷がつく。そう思って殺さないでいてやった。
しかし、エレンの事は諦めきれない。
俺は教会に向かった。
教会の神官なら、勇者の俺を崇めるはず。言う事を聞くはずだと思った。
俺はその町の教会の神官長と話し、エレンを聖女に任命するように言った。
神官長は、俺の加護を手に入れられると、喜んで話に乗ってきた。
その二日後、エレンは聖女として俺に付いてくる事になった。
神官長が小汚いチビにバレないようにと、早めに出発した方がいいと提案してきた。
俺はチビ程度に何を言っているのか? と思っていたが、神官長があまりにも必死だったので従う事にした。
今思えば……ここでエレンを見つけなければ良かったのだ。
エレンに関わった時から……俺の破滅に向かい歩きだしていた。
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