番外編 タロウ編 4話 悪夢の始まり
俺は勇者だ……。
そう思って、俺はガキに掛かっていった。
しかし、俺達はガキにアッサリと負けてしまった……。
しかも……、俺は何を見せられているんだ?
目の前で何が起きているんだ?
聖女マリテの正体が、小汚い爺だった……。
しかも、爺は自分の事を神と言い、ガキを別空間に飛ばしやがった……。
い、いや……。
うげぇえええええ!!
お、俺は……、あんな爺と……。
吐き気がする……。
「か、身体が、動かねぇ……。何とか逃げねぇと……」
アイツら二人が別のどこかに行っている間に逃げなくては……。
俺は、残った腕で必死に部屋から出ようと這いずる。
た、助けてくれ……。
なんであのガキはあんなに強いんだ……。
俺が部屋を這って出ると、ネリーの後ろ姿が見えた。
「ね、ネリー……。た、助けてくれ……」
俺は必死に叫ぶ……が、大きな声が出ない。
ネリーと兵士は俺に気付かないまま、去っていった。
なんで……、なんでこんな事に……。
いや、今は何としても逃げなくては……。
どちらが生き残ったとしても、俺に未来はない。
あの爺が神だと知った以上、勇者には戻りたくない……。だから……。神が戻ってくるのも嫌だ……。
じゃあ、あのガキか?
あのガキはもっと嫌だ。
あのガキは俺を苦しめると言っていた。あの目はキチガイの目だ。
現実世界にいる時も、頭の狂った奴を見た事がある。あのガキの目はそれと同じだ……。
そもそも、あのガキは人を殺す事に何の躊躇いもない。
現に仲間の
確かに魔族に後れを取る事はあったが、それでも俺達は強かったはずだ。
しかし、あのガキはアイツら三人を相手に息を切らさずにあっさりと殺した。
ソレーヌ。
アイツは、剣士の国と呼ばれる国の王女で、俺に匹敵する剣技を持っていた。
俺だってアイツを倒そうと思ったら、本気を出さなきゃいけない。
だが、アイツはあっさりと殺された。しかし、一番最初に殺された方が幸せだったのだろうな……。
ジゼル。
この国の宮廷魔導士で、国王の愛人だった女だ。
魔導士としての腕も超一流で、権力に弱い女だった……。
俺に真っ先に抱かれた女だった……。
だが、アイツも結局はあのガキに魔力を流し込まれた後、焼き尽くされて殺された。
アルジー。
某国での武闘大会の覇者。素手での戦いでは、俺よりも強かった。
あっさりとした性格で、仲間の中では一番仲が良かった。
そんなアルジーもあっさりと……、いや、アルジーの場合は痛めつけられ殺された……。
仲間が全員殺された後、俺もあの圧倒的な力で痛めつけられた。
途中、爺により神の力で強化したにもかかわらず、全く通用しなかった。
その結果が今の俺だ……。
本当にどうしてこうなった?
俺は、この世界に呼ばれただけの被害者じゃねぇか。
「く、くそ。あの神が悪いんだ……。俺は何も悪くねぇんだ……」
俺は、少しでも逃げようと這いずりながら移動を始めた。
惨めだ……。
少し前までは、何をしても許されて、好き勝手ができていた……。
『貴方は、何を成したの? 貴方は何をもって勇者なの?』
ネリーに言われたセリフだ。
今思えば当然なのかもしれない。
俺が良く読んでいたライトノベルにも、調子に乗った勇者は痛い目に遭うのが書かれていたはずだ……。
なぜこんな事に?
いや、答えは出ているのだろうな……。
俺は、神に選ばれ、三人の仲間達からも求められ、調子に乗っていたのだろう。
その結果が今のこの状況だ。
「ぐ……意識が飛びそうだ……」
幸いな事に痛みは無いのだが、あのガキの事を思い出す度に恐怖でおかしくなりそうだ。
頭に過るのは……。
俺は勇者なはずなのに、なぜこんな事になっているんだ? とそんな考えばかりだった。
勇者は何をしても許されるほどの力を持っているんじゃなかったのか?
なんで、俺はそうならなかった?
現実はそこまで甘くなかったという事か?
お、おかしいだろ!?
俺は選ばれただけじゃねぇか!?
好き勝手やっても許されるはずなじゃねぇか……。
ま、まさか……。あのガキも異世界召喚者なのか?
ふざけんなよ。神の野郎はあんなキチガイまで召喚しやがって!?
俺が泣き出しそうになりながら、逃げようと這っていると、部屋から何かが出てきた……。
どちらかが帰って来たのか?
そんな事はどうでもいい。逃げなくては……。
俺は必死に這いずって逃げる。
あまり進まない。進まなくても逃げなくては……。死にたくねぇ。
しかし、突然腹部に痛みが走り……俺は気を失った……。
「ん……。ここはどこだ?」
目を覚ますと、俺は真っ暗な部屋で鎖につながれていた。
引き千切られたはずの腕や足も治っている……。
「な、なんだ、この鎖は。離せ!! 出せ!!」
俺は叫ぶ。
今度は大声を出せた。
「おぉ……目を覚ましたか……」
暗いから気が付かなかったが、俺の目の前には二人の大男がいた。
「まったく……。もう三日も目を覚まさなかったんだぞ……」
三日だと?
もしかして、こいつらは俺を助けてくれたのか?
「おい。あの方を呼んできてくれ」
「分かった。殺せないようにはなっているが、殺すなよ」
「あぁ……」
何を言っているんだ?
お、おい……。
その棘のついた鉄球で何をするつもりだ!?
「お、おい……。こ、この鎖を……」
男は俺に棘のついた鉄球を振り下ろす。
「ぎゃあ!!」
痛み?
どういう事だ?
俺は、痛みを感じなくなった筈だ!!
しかし、そんな俺の事情など関係なく大男は俺を殴る。
殴る。
殴る。
俺は泣きながら「止めてくれ」と繰り返した。が、大男は止める事が無い。
俺は泣きながら……「ど、どうして、そんな酷い事を……」と絞り出すように吐くと「俺の娘もそう思っていた筈だが?」と怒りのこもった声で返される。
娘? いったい誰の事だ?
「貴様は覚えてもいないだろうな。王都で貴様等に殺された若い娘は沢山いた筈だ。将来を潰された者を含めるとさらに増える。俺だけじゃないぞ? お前に恨みを持っている者は俺一人じゃない……」
そう言って、大男は俺を殴る。
因果応報……。
その言葉が俺の頭を過る……。
「レティシア様は俺達に復讐のチャンスをくれた。お前は何度も死ねるらしいな。今日は俺の日だ。俺の気が済むまで……いや、気が済む事はないが徹底的に楽しませてもらう!!」
俺はしばらく殴られ、大男が疲れたら、一時休憩をはさみまた殴られる。
その流れがなんど続いただろうか……。
こ、こいつが気が済むのを……待つしかない……
俺はそう考え、叫ぶのを止めようとした時、部屋に光が入る。
ろうそくの明かりだ。
「レティシア様」
大男が手を止め跪く。
「あ、私はタダの小娘なのでそんな事をしなくていいですよ。で? ウジ虫は起きましたか?」
あのガキは、笑顔で近付いてくる。
「た、助けてくれ!!」
俺は暴れるが鎖は外れない。
ガキは俺の腹を思いっきり蹴ってくる。
「ウジ虫の分際で偉そうにしないでください」
そう言って、俺を蹴り続ける。
「や、やめろ……うげぇ……」
腹を蹴られ続けて、胃液を吐き出す。
その姿を見てガキは笑い出す。
「あははは。良い事を教えてあげますよ。貴方に力を授けた神も、貴方を召喚したツルツルも、貴方を神格化した教会ももうありません。つまり貴方を守るものは何一つありません」
そんな事……言われなくともわかっている……。
お前がすべて滅ぼしたんだろう……。
「だけどですね? 貴方には超再生の魔法と精神耐性の魔法を何重にもかけておきました。だから、よっぽどの事が無い限り死にはしませんし、気が狂う事もありません。あ、私は親切ですので、痛覚は数倍になるように魔法をかけておきました。拷問魔法というらしいですよ? 便利な魔法がありますよね」
ご、拷問魔法だと!?
ガキの笑顔が俺には悪魔の微笑みに見えた……。
「貴方に恨みを持つ者は、たくさんいます。今でも予約が殺到しているのですよ? 私に代行を頼む人までいます。良かったですねぇ。人気者です」
話をする間も、ガキは俺を蹴り続けている。
「そう言えば、戦闘中に私が言った事を覚えていますか?」
な、何を言ったかだと?
「永遠の地獄を見せてあげると言いました。さぁ、あの時の続きです」
そう言って、俺を斬り刻む。
「ぎゃあああああああ!!」
薄暗い空間に俺の叫び声だけが響く。
殺しにくい所を斬り続けてやがる。超速再生のせいで斬り刻まれる度に再生する。だけど、痛みだけは消えない!!
「あ……悪魔……」
俺が言える事はそれだけだった……。
「悪魔ですか? そうですね。私は基本、エレンがいればそれでよかったんです。それを奪った貴方が悪いんですよ? だから、私を悪魔と言うのなら、悪魔を呼び出したのは貴方自身です。恨むのなら、自分を恨んでくださいね」
そう言って、ガキは大男に何かを話して部屋を出て行った。
「さて、俺に与えられた時間は後十五時間だそうだ……。楽しもうじゃないか。勇者様」
「あ……あ……」
その日から、俺のところには俺の被害者の家族が毎日のようにやってきた。
来る連中全てが、俺に恨み言を言いながら俺を痛めつけてくる……。
たまにあのガキが来て、「何カ月先まで予約がいっぱいですよぉ。嬉しいですねぇ……」と嬉しそうに、俺を痛め付けていた。
この地獄は、いつまで続くんだ……?
狂いたくても狂えない。
気を失いたくても気を失えない。
逃げたくても逃げられない……。
もぅ……殺してくれ……。
俺は、召喚して来た国王と神を恨みながら、今日も怨みのこもった目をした奴等に痛め続けられる……。
悪夢なら……醒めてくれ……。
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