第37話 そして……。


 神の死体は塵となって消えてしまいましたが、万が一復活してもいいように、その場に留まります。

 しかし、いつまで経っても神は復活しません。


 やはり、再生能力がある神とはいえ、一度死ねば死んでしまうのでしょう……。


「これで、この世界の神はいなくなってしまったのでしょうか? いえ、いなくなったんですね……」


 別に神に縋るつもりなんてないですが、神がいなくなった事で、世界は混乱するでしょうか?


「そんな事ないよ?」


 誰ですか!?


 私が完全に気付かないなんて……、いったい何者なのでしょう!?


「あはは。レティシアちゃん、初めまして。君ならアブゾルを殺せると思っていたよ」


 私の背後にいたのは、私と同じくらいの背丈をした髪の短い少女でした。


 少女は、神を呼び捨てしています。もしかしたら、この少女は神と同類?


 ……。


 この少女の方が……、神よりも上位の存在? 


 正直分かりません。ただ、私でも勝つのは不可能かもしれません。いえ、不可能です。


 これは困りましたね。まさか、神を殺したから、その報復ですか?

 死ぬのは怖くありませんが、せめて一矢報いる事ができるでしょうか?


「うん? 警戒しているのかな? 大丈夫だよ。君がアブゾルと戦う事は知っていたからね」


 戦う事を知っていた?

 それにも関わらず止めなかったとはどういう事でしょう?


「止めなかったのはそうだね……。私達にとってもアブゾルは邪魔だったという事だよ」

「……っ!?」


 心を読まれたのですか?


「あはは。普段は心を読む行為はしないんだけどね。今回は君と話がしたいから、こうやってここに来たんだ」

「私にですか?」


 私に話?

 いい話ではない気が物凄くします……。


「君にとってもいい話かもしれないよ。レティシアちゃん、君に神を名乗ってほしいんだ」


 私が神に?

 何を言っているのでしょうか?


「何を言っているといった顔をしているね。まぁ、普通はそういう反応になるんだろうね」

「なぜ私が神を名乗らなければいけないのですか?」

「あはは。まぁ、レティシアちゃんは、神であるアブゾルを殺したばかりだからね……。そういう反応になるのは仕方がないね。レティシアちゃんには神について教えておくよ」

「え? 遠慮しておきます」

「あはは。普通は断らないと思うんだけど、ちゃんと聞いててね」


 あ、ダメです。

 これは話を聞く流れです……。


 少女が神について教えてくれます。


 世界というのは、この世界以外にもたくさんあるそうです。

 そういった世界は、無法地帯なので、いつも大きな争いがおきて、生物達が滅びてしまう事が多々あったそうです。

 

 そこで神族という種族の人達が、世界を管理して、そしてその神族が神と呼ばれるんだそうです。


「はて? 今の話では、神族でないと神になれないんではないのですか?」

「そういうわけじゃないよ」


 世界を管理できるのであれば、別に神族でなくても、人間や魔族でも構わないそうです。

 だから、私でもいいと言うのですね……。


 ……ですが……。


「嫌です。私は自分勝手な人間です。エレンがいなくなった今、姫様さえいればいいので、他の生物や人間がどうなろうと知ったこっちゃないです」


 まぁ、正直な話をすれば面倒臭いです。

 私が神になれば、教会をすべて滅ぼしてしまいますよ。


「あはは。心は素直だね。でも面倒というわけではないよ。別に何もしなくていいんだ」


 何もしなくていいのなら、いてもいなくてもいいはずです。

 そう考えれば、別に私じゃなくても、そのあたりのゴブリンにでも神を名乗らせればいいです。


「いや、それはさすがに駄目だよ……。まぁ、今すぐ答えなくてもいいよ。いずれ、答えを聞きに来るから、考えておいてね」


 そう言って、少女は消えてしまいます。

 今のは転移魔法でしょうか?


 少女が消えた後、私は外に出ます。すると廊下にウジ虫が転がっていました。

 私は転がっているウジ虫を冷たい目で見て、蹴ります。


「うぅ……」

「神を殺したのに生きているのですね。あ、百回は死ななきゃいけないんでしたっけ? 姫様に頼んで、地下深くに幽閉してもらいましょう。私が何度も殺してあげますよ」


 私はウジ虫を拘束して、引き摺りながら姫様の気配がする部屋まで歩きます。


「レティ!? 無事だったのね!!」

「姫様。終わりましたよ。神も殺しました」


 姫様は、部屋の前でじっと待っていてくれたそうなのですが、私と神の戦いの余波が激しかったらしく、安全のため、兵士達に別の部屋に連れて行かれてたそうです。


 私は聖女が神だった事や、神を殺した後、現れた少女に神を名乗れと言われた事などを説明しました。

 説明を聞いた姫様は驚きはしていましたが、私が帰ってきた事を喜んでくれました。


「で? レティはこれからどうするの? 神になって、教会を支配するの?」


 教会を支配ですか。

 神になる事に興味はありませんが、腐った教会を立て直すのも面白いかもしれませんが……、どうでもいいです。


「じゃあ。前に行っていた通り、私の護衛になって。レティが良ければなんだけど……」


 そうですね。

 復讐が終わった今、もうやる事もありませんし……。


「姫様の護衛として頑張るので、エレンのお墓を守らせてくれますか?」

「それは当然よ。これからもよろしくね。レティ」

「はい姫様」

 

 その後、姫様とレッグさんは結婚して、新しい女王が誕生しました。

 私は姫様の護衛として、エレンのお墓を守りながら、幸せに暮らしました。





 ウジ虫ですか? まだ、生きていますよ?

 ファビエ城の地下深くのに部屋を作り、毎日のように遊んであげています。

 無駄に再生能力があるので、今のところは一度も死んでいませんよ。


 ウジ虫には、これからも私のストレス発散の道具として頑張ってもらいます。

 

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