教会編 3話 神はもういませんよ
私が前に出ると、教会の人達は後ろへと下がります。
どうしてでしょう?
私を敵と言ったのは、彼等なのですが……。
「で? 私に何か御用ですか?」
「ぐ……近寄るな」
はて?
近寄るなと言われても、近寄らないと話になりませんが……。
まぁ、良いです。
この場に立ち止まれば、話はできるでしょう。
「はい。これでお話しできますよね。で? 何の御用ですか?」
しかし、教会の人達は何も言いません。ただ、睨んでくるだけです。
「あのー……。何も言わずに人を睨みつけていますが、貴方達は私を『神敵』と言ったのですよ? つまりは敵です。敵に対して睨みつけるという事は、明確な敵意を向けているのです。という事は、ここで貴方を殺しても何も問題がなくなるんですよ? さて、覚悟はいいですか?」
私は一歩前に出ます。
しかし、教会の人達は睨みつけるばかりで、何も言ってきません。
結局、どうしたいのでしょうか?
はて?
あの奥にいる人はどこかで見た事のある人です。
あぁ……、思い出しました。
「以前、私達が住んでいた町の生き残りですか。あの時は気分で逃がしてあげたというのに、また私と敵対するのですか? 今度は確実に殺しますよ?」
私は手のひらに炎を出します。
しかし、その様子を見た教会の人達の一人が、私を指さし怒鳴りだします。
「女王陛下!! 今の発言が全ての証拠だ!!」
証拠?
最初から、私は町を滅ぼしたと言っていますが?
正直な話、だから何という話ですけど。
私は怒鳴りだした男性の足の骨を蹴り折ります。
「ぎゃあ!!」
うずくまる男性の髪の毛を掴み、顔をこちらに向けます。
「だから言っているでしょう? 貴方は私と敵対したのですよ。だから、もはや、何を言おうと私には関係ないのです。だって、貴方達を
「ま、待て。我々は話をしに来たのだ。争いに来たわけではない」
はぁ?
いまさら何を言っているのでしょう?
「随分とおめでたい頭をしているのですね。もし、私が神の威光に屈していたら、私を弄り殺すつもりだったのでしょう? 神の神託でしたっけ? そんな幻聴を信じるくらいなのですから、都合のいい話です」
私がくすくすと笑っていると、カチュアさんが抱きついてきました。
「私がレティシア様を守って見せます!!」
いえ、抱きつかれるのはいいのですが、動けないのですが……。
カチュアさんはほかの人と比べると力が強いんですよね。私でも、力を入れないと振りほどけません。まぁ、カチュアさんに抱きつかれるのは嫌いじゃありませんから、別にいいのですけど……。
まぁ、良いです。話を続けましょう。
「それで、話とは何なのですか? あ、神の神託と言っていましたが、私は神を名乗る爺を殺したのですが、もし、あれが神だったのならば、いったい何の言葉を神託として受けたのですか? もしかして、私が憎くて捏造でもしましたか?」
ここで、神を殺したと言えば、教会の人達は怒るでしょう。そう思っていたのですが、逆に動揺させてしまったようです。
「か、神を殺した?」「……?」「ば、馬鹿な……」
ほとんどの人は動揺しているくらいですが、明らかに数人は顔を真っ青にさせて震えています。
「お、おい。いくら何でもホラだろうが……。何をそんなに怯えているんだ?」
「あ、あの娘から……神と同じ波動を感じる。だ、ダメだ……殺される……」
神と同じ波動?
やめてくださいよ、気持ちが悪い。
それに……、殺される?
「もしかしてと思いますけど、殺される覚悟もないのに、ここに来たのですか?」
私は青褪めた人の頭を掴みます。
「あの町で言ったでしょう? 死にたくなければ逃げ出せばいいと。それなのに、どうしてここにいるんですか? もしかしたら、どうにかできると思ったのですか?」
私は姫様に視線を移すと、姫様は呆れながらも頷いてくれました。
私は青褪めた人の首の骨をへし折ります。
首の骨が折られた人はその場で息絶えました。
殺された人を見て教会の人達は言葉を失ったのか、その場で青褪めています。
「ひ、人殺し!!」
「はい? そうですね。この人は一度見逃しましたけど、愚かにも再び私と敵対したので殺しましたよ」
「こ、殺さなくてもよかったじゃないか!?」
「もしかして、自分達は死なないとでも思いましたか? よく考えてください。教皇を殺すような
「はい!!」
カチュアさんは素直に一歩引いてくれます。
「話を戻しますが、教皇を殺すような極悪人を前に、神の名を出せば何もされないと思いましたか? それは甘い考えです。私は貴方がたが神に守られていようと、殺します。それだけですが?」
私は笑顔でそう答えます。
すると、教会の人達が数人逃げていきます。
「あ、逃がしていいのですか?」
「大丈夫よ。兵士を門に向かわせているわ。殺すわけにはいかないから、どこかに幽閉しておきましょう」
幽閉ですか。
やはり姫様は優しい人ですね。
「また、王族の評判が落ちるわね……」と呟きますが、この騒ぎを見に来ているやじうまさん達の視線と怒気は教会関係者達に向いているように感じるのですが……。
いつの間にか、教会の人達の周りには、町の人達がいました。
「ネリー女王様。この騒ぎは?」
野次馬をしていた男性が姫様に話しかけます。普通であれば不敬になるのでしょうが、姫様はあまり気にもせずに男性に何が起きたのかを説明します。
男性は「そりゃ酷い話ですね」と私を見ます。
「レティシアちゃんはこの国の英雄だ。勇者が好き勝手やっているのを止めてくれたのは、教会でも神でもなくレティシアちゃんだ。そもそも、この国にいまだに教会があるのも気に入らねぇ」
男性はそう吐き捨てます。
「ま、待て!! 貴様等も教会に救いを求めてきただろうが!! 教会は……「金を巻き上げて、下らない理想論を語るだけだっただろう?
まぁ、そうなるでしょうね。
これには教会の人達も何も言えないみたいです。
「兵士長。この者達を捕らえなさい。レティ。カチュア。話があるから、私の部屋に来て……」
教会の信徒達が兵士さんに拘束されていくのを背に、私達二人は、姫様について行きます。
姫様の部屋に着くと、椅子に座るように言われました。困りました。これはお説教のお時間です。
私達が俯いていると姫様は溜息を吐きます。
「レティ。教会がどれほど強大か分かっている?」
「知りません」
私は即座に答えます。
「神を殺した貴女は何の問題もないとは思うけど、教会を相手にするという事は、全世界を敵に回すようなものなのよ。そうなってくると、あなた一人で戦うわけにはいかなくなるの」
なるほど……。確かに一点から襲ってくるのなら、何万人いようが殺しつくす事は可能ですが、いろいろな方向から襲われれば、私でも国を守り切る事は出来ません。
それは困ります。
私はカチュアさんを見ます。
「レティシア様?」
「カチュアさんを最低でも以前の私くらいに育て上げる必要がありますね」
私がそう呟くと、カチュアさんは目を輝かせ「はい!!」と返事をしますが、姫様は溜息を吐きます。
「レティ……。貴女達二人が強くなっても、間に合わないのよ。これは国同士の戦争になる。うちの国は生まれ変わったばかりだから兵士がまだ育ってないのよ。レッグさんが必死に鍛えてくれているのだけど、それでも間に合わない。もし、戦争になって、私が生き残ったとしても、国民が死に絶えれば国は滅びるわ。それを避けようとするのが
姫様が言う事は難しいですが、きっと正しいですね。
「姫様。レッグさんでは話になりませんから、私に兵を鍛える許可をください!!」
私は立ち上がります。
「鍛える?」
「はい!! 国を守れるように強い兵士さん達を作ってみせます!!」
私は自信満々にそう答えました。
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