第32話 私は望みどおりです


 突然のパワーアップに、ウジ虫の表情は自身に満ち溢れていました。

 しかし、その力が自分の命を縮めている事を知らないからあんな顔ができるのでしょう。


 ウジ虫は必死に攻撃を繰り出してきますが、避けるのは容易いので、一切攻撃は当たりません。

 しかし、私の攻撃も、ウジ虫の硬い防御力に完全に防がれています。

 試しに魔力を込めて斬ってみたのですが、薄っすらと傷がつく程度で、致命傷にはなりませんでした。


「厄介な体ですねぇ……」


 あれから何度も斬り付けているのですが、すぐに回復されてしまいます。まぁ、ウジ虫の攻撃も私には当たらないので、決着がなかなかつきません。


「どうした? 自慢の攻撃も俺には通用しないようだな」


 私が決定打を与えられていないのは事実ですが、ウジ虫の攻撃も当たっていないので、普通に考えればジリ貧なのですが、なぜかウジ虫の表情には余裕が見えます。


「その薄気味悪い顔を止めてくれませんか? 非常に不愉快です」


 私が嫌そうな顔でそう言うと、ウジ虫の口角が吊り上がります。


「くははは。攻撃の通じない俺に対して、お前はただ逃げているだけだ。ここまでやるとは予想外だったが、ただの人間であるお前に、いつまでも避け続ける体力があるかな?」


 どこからそんな自信が生まれるのかは知りませんが、ウジ虫も剣技というモノをそこそこは使えるみたいです。

 ただ、魔王の剣技に比べれば子供が剣を振っているようにしか見えませんし、剣技だけで言えば魔王よりも強いマジックと比べると哀れに見えてくるくらいです。

 それでも最低限は勇者なので、頑張って剣技を繰り出してきます。


「無駄無駄無駄無駄!!」


 ウジ虫はさらに調子に乗って剣を振り下ろしてきます。まぁ、魔王達の剣技と比べれば、止まっているようにも見えますけど。


 どちらにしても近づかれると不愉快なので蹴り飛ばそうとしたのですが、防御力が高いので蹴り飛ばせませんでした。

 すこし、苦戦しているように見えたのか、姫様が私を呼びます。

 私は姫様に向かい笑います。


「姫様、大丈夫ですよ。もうすぐ殺しますから」


 私は、二本の剣に魔力を注ぎ込みます。

 すると聖剣から青い炎が纏わりつき、魔剣には黒い炎が纏わりつきます。

 ん? 何やら面白そうな現象が起こりましたね。なんでしょうか?


「な、なんだ!! その剣は!?」


 ウジ虫は、青い炎を見て驚き、そして焦りだします。


「その炎!? まさか聖剣の光!? 何故、貴様が聖剣を持っている!?」

「うるさいですね。私がどんな剣を持とうと貴方には関係ないでしょう?」


 私はウジ虫の首を狙い斬りかかります。

 しかし、ウジ虫はその高い防御力によほど自信があるのか、避けようともしません。

 いえ、受け止めるつもりでしょうか?

 腕で首を守ろうとしています。

 

 ……でも、それじゃあ、ダメですよ?

 これで終わっても面白くないですから、ちゃんと教えてあげます。


「避けなくていいんですか? その腕だけじゃ首を落としてしまいますよ?」

「貴様が聖剣を持っている事には驚いたが、斬れると思うのならば斬ると良い。無駄だと思うがな」


 そうですか。では遠慮なく斬らせていただけますよぉ……。

 

 とはいえ、首を落とすのは面白くありませんから、腕だけを斬り落としましょう。

 

 私は腕を斬り落とすつもりで剣を振り抜きます。

 ウジ虫は硬い防御力で弾けると思ったのでしょうが、そうはいきません。

 

 ウジ虫の余裕は腕が空を舞った事で一気になくなります。


「なんだと?」


 はて?

 腕が斬られたのに、ウジ虫は痛がるそぶりを見せません。痛くないのでしょうか?


「貴様……。いったい何をした?」

「言いましたよ? 斬り落とすと……」


 ウジ虫が腕に気を取られている隙をつき、足も斬り飛ばそうと思いましたが……残念。避けられてしまいました。


「はて? なぜ避けるのですか? その圧倒的な防御力があれば大丈夫なんじゃないですか?」

「黙れ!! 勇者魔法!! 『シャイニング・レイ』!!」


 ウジ虫が魔法を使うと、私の上空から光が落ちてきます。

 ん? これは光の刃ですね。


 こんな狭い空間で、範囲魔法とは、馬鹿ですか? 姫様達に当たったらどうするんですか。

 私は姫様の方を見て結界魔法を唱えます。急ごしらえの魔法ですが、勇者魔法(笑)くらいならば、簡単に防げるでしょう。


「死ね死ね死ね死ね!!」


 光の刃の雨は、激しさを増します。鬱陶しいですね。

 私は、ウジ虫の懐に入ります。

 

「自分もろとも貫いて下さいね?」


 この光の雨は、を狙っているようです。その証拠に姫様達の所には降り注いでいません。ウジ虫の近くに寄るのは嫌ですが、ここまで接近すれば、光の刃はここにも降り注ぐはずです。


 私は上空を見上げ、光の刃を確認した後、ウジ虫から離れます。

 ウジ虫も、この事態は予測していなかったらしく、光の刃をまともに受けていました。


 さて、勇者魔法というのは、勇者に効果があるのですかね?


 光の刃は、術者であるウジ虫に降り注いだ後、止みます。

 止んだ後、ボロボロに斬り刻まれたウジ虫が立っていました。


「勇者魔法というのは、勇者にも効果があるんですね。勉強になりました」


 むしろ、私の斬撃よりも威力がなさそうに見えましたが、あのダメージの負い方は……。

 もしかしたら、勇者の弱点は勇者自身かもしれませんね。魔王も同じかもしれませんねぇ。

 とはいえ、これで死なれても面白くありませんけどね。


「くくく……。腕を斬られ、自分の魔法に斬り刻まれて焦ったが、どうやら致命傷ではないようだ。しかも……ふん!!」


 ウジ虫が力を入れると、私が斬った腕が生えてきました。斬り刻まれた体の傷も治っていますね。

 これは再生能力ですか?


 私は姫様に確認をします。


「姫様? 勇者には自然治癒能力でもあるんですか?」


 姫様は、小さく頷きます。

 そうですか……。

 

 よかったです・・・・・・


 私は姫様に近付きます。

「ご、ごめんなさい!! 重要な事を伝えなくて!」


 姫様は急に謝ります。


「え? どうして謝っているんですか?」

「え? だって再生能力がある事を言い忘れていたのよ?」


 あぁ。そういう事ですか。だから姫様は罪悪感を持っちゃったわけですね。


「いえ、それは別に何の問題もありませんよ。ここから先は姫様は見ない方がいいです。この部屋から出た方がいいですよ」

「え?」

「今までは、殺さないように・・・・・・・戦っていました。でも再生能力がある以上……いえ、おそらくですが、神に勇者と認定されたウジ虫には、魔王と同じ自動蘇生能力があるかもしれません」


 姫様は、私の言葉に驚き顔を青褪めさせます。


「そ、そんな……。ならばタロウは殺せないというの!?」


 私は姫様に微笑みます。


「違いますよ?」

「え?」

「私の望み通り・・・・、死にたくなるような恐怖を与える事が出来るという事です」


 私はレッグさんに姫様の事を頼み、勇者の元へと向かいます。

 姫様達は、部屋から退出していきます。私はそれを見送った後、ウジ虫に視線を移します。


「ふはははははは。ネリーとの別れは済ましたか? お前は殺す。快楽を与えずに殺す。殺す。殺す!!」


 ウジ虫の顔が、歪み赤く染まります。


「殺す。腕を引きちぎり、足をを引きちぎり、犯しつくしてから、臓物を一つずつ取り出し、じっくり殺してやる!!」


 ウジ虫の口角が吊り上がります。

 本当に気持ちが悪いです。

 私は、ウジ虫の頬を思いっきり・・・・・殴ります。今までとは違い、頭を潰す勢いで殴ったので、頭が半分吹き飛び体も部屋の壁に向かって飛んでいきました。


 私は、ウジ虫に近付きます。


「殺す? 貴方が私を? 無理ですよ」


 私は、必死で押さえていた殺気を全て解放します。

 すると面白い現象が起きました。私の殺気が形になり始め、背中に羽根の様なモノが出来ました。これは何でしょう?


「な、なんだ!? その力は!?」

「知りませんよ。例え知っていたとしても、教えませんけどね。さて、貴方がさっき言った、腕を引きちぎり、足を引きちぎり、犯し……これはいりませんね。臓物を一つずつ取り出し、じっくり殺す……でしたっけ? これは採用です」

「な、なに?」

「それを終えて、貴方が死ねばそこで終わり、生き返れば、永遠の地獄を見せ続けてあげますよ」


 私は、ウジ虫の首を掴み放り投げます。


「さて、始めましょうか?」


 私は剣を振り上げて、最初の惨殺というのを試す事にします。


「さぁ、できれば死なないでくださいね。これから、楽しい時間の始まるんですから」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る