第26話 出来る出来ないの話じゃないです。やるかやらないです。


 廊下が静かです。

 魔族を殺し尽くし、誰もいない廊下を一人歩きます。

 しばらく歩くと、拘束していたマジックを見つけました。


 マジックは気が付いているらしく、床で寝かしておいたはずなのですが、廊下に座っていました。


「貴様……、魔王様をどうした?」


 私は何も答えずにマジックを拘束していたロープを斬り開放します。

 もちろん、ロープを斬った剣は魔王の魔剣です。


「その魔剣は!? ま、まさか……魔王様は……」


 マジックは、俯き涙を流しています。

 魔王はなんだかんだと言って魔族から慕われていたのですね。

 私はマジックに声をかけようとしましたが、マジックは急に私に向かい剣を突き付けてきます。


「なんですか?」

「今、この城には俺しかいないのだろう? だったら、魔王様の仇を討たせてもらう……。覚悟しろ!!」


 どうやら戦う気みたいですね……。

 初めて戦った時と違い、頭に血が上っているマジックを圧倒する事は簡単なので、再び拘束します。


「こ、この二日間で何があった? なぜそこまで強くなっている!?」


 強くなっている? 何を言っているのでしょうか。

 人間が……、しかもただの小娘が、たった二日で極端に強くなれるはずがないでしょう?

 

 とにかく、これ以上マジックに絡まれるのは堪らないので、魔王の今の状況を話しておきます。


「魔王なら、魔王の魔の玉座で眠っていますよ。これは封印なので、私が死ぬか、呪いが解けるまでは封印は解けません」

「ふ、封印だと? 封印魔法と言えば、神官や司祭にしか使えないはずだ。なぜ、お前にそんな魔法が使えるんだ!?」


 封印魔法?

 神官や司祭にしか使えない?

 意味の分からない事を言わないでください。


「私はただの小娘です。それ以上でもそれ以下でもありませんよ」


 私はマジックを連れて魔王の間へと戻ります。

 玉座には銀色の髪の毛の男性が座っていました。

 はて?

 魔王がいなくなっていますよ?


「く、クランヌ様!?」


 マジックは慌てて魔王の近くに駆けていきます。

 まぁ、どちらにしても今の魔王は無防備です。


「マジック。ここで魔王を見張っていてください。もし、封印が解けそうになったら、魔力を流し込んでください」

「なぜだ? 封印が解けるのならば、俺達としては歓迎するべき事であり、わざわざ封印を強化する必要はないと思うのだが?」

「……」


 私はため息を吐きます。

 マジックは魔王の気持に気づいていないのか……それとも、理解していないのか……。


「四天王として一番近くにいたのに、魔王の気持ちが理解できないんですか? 魔王は死にたがっていたでしょう?」

「なんだと?」


 私は魔王の本音を話します。

 魔王は魔族達と笑って暮らしたいと言っていました。その気持ちをマジックは知らないのでしょうか?

 どちらにしても、私は魔王と約束しました。


 神を殺すと……。


「お、お前は、神を本当に殺せると思っているのか?」

「さぁ?」

「さぁ……って、お前は自信があるから、神を殺せると言っているんじゃないのか?」

「実際に神と会った事もないのに、殺せるか殺せないかは分かりません。もし殺せなかった時は、私が死ぬだけです」


 もし、神に私が殺されて、その後の世界がどうなろうと、私の知ったこっちゃないです。

 まぁ、もし封印なり、どこかに閉じ込められたとしても、命ある限りは神を殺す手段を考えて、実行するまでです。


「出来る出来ないは、たいして重要ではないんですよ。一番大事なのはやるかやらないかです。私はやると言ったら、どんな手段を使ってもやるだけです」


 私は魔王の部屋から出ようとします。

 あ、一つだけ言っておきましょう。


「魔王を復活させたいのであれば好きにしてください。別に貴方がたが神の操り人形になりたいのならば、止めはしません。その代わり、神を殺した後は貴方がたの番です。よく考えて答えを出してください」


 それだけ言っておけば大丈夫でしょう。

 私は魔王城を後にします。

 さて、マジックはどうするでしょうね。

 ……正直どっちでもいいんですが。



 魔王城から出た私は、転移魔法陣で王都に戻ります。

 

 転移魔方陣は便利ですね。どれだけ遠くても一瞬で帰ってこれます。

 王都の門をくぐると、町の中が騒がしいです。一体どうしたのでしょうか?


 騒がしいのは気になりますが、私はお城に向かい歩きます。

 はて? 何かじろじろ見られていますね。あぁ。背中に背負った魔剣ですかね? 

 魔剣をしまう鞘もなかったので、背中にくくりつけているのですが、目立ちますかね。

 しかし、魔剣が珍しいとはいえ、ジロジロ見られるのは気分の良い物じゃありませんね。と思っていたのですが、兵士らしき人に止められてしまいました。ん? この人見た事がありますね。


「レティシア様……。その恰好は?」

「私みたいなただの小娘に『様』はいりませんよ。しかし、格好ですか?」


 私は自分の姿を見てみます。

 あ、魔族の返り血を浴び過ぎて、全身汚れていますね。

 これでは見られるのも仕方ないのかもしれません。


「困りましたね。仕方ありません。一度宿屋に入って「いえ、レティシア様にはこのままお城に戻ってもらいます」はい?」


 兵士さんの話では、今は町の中がゴタゴタしているみたいで、宿よりもお城にいた方が安全だそうです。


「町で殺人事件があったらしく、急いで現場に向かっている時に、その恰好のレティシア様を見つけたものですから、お声をかけさせてもらいました」

「あぁ。それは丁寧に。このまままっすぐお城に向かいますので、貴方は現場に向かっても構いませんよ」


 私がそう言うと、兵士さんは私に頭を下げて走って行きました。

 私は、兵士さんを見送った後、お城に向かい歩き出しました。

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