閑話 レティとの出会い ネリー視点
私はファビエ王国の第一王女ネリー。
この国はここ数年腐りきっている。いえ、この国ではなく国王が腐っている。
元々、できもしない野心に執着したお父様だったけど、強大な魔王を倒す為に、異世界から勇者を召喚してしまった。それが全ての間違いだった。
召喚された勇者が正しい心を持っていてくれたのなら、どれほど良かった事か……。召喚された勇者タロウは性格が歪んでいた。狂っていた。下衆だった。
タロウが現れてから、若い女性は外に出られなくなった。いつタロウに襲われるか分からないからだ。
城でも好き勝手やっていた。
私の息がかかった侍女は守り切ったけど、それ以外の女性はタロウに襲われた。
そして……、王女である私をも襲おうとしてきた。
あの時はたまたま、私が慕っているレッグさんが守ってくれたから良かったけど、もしレッグさんがいなかったと思ったら背筋が寒くなる。
レッグさんに痛い目に遭わされたタロウはお父様に頼んで私を婚約者に仕立て上げた……。
私は咄嗟に魔王を倒す事を条件に付けたけど、タロウならばもしかしたら魔王を倒す事ができるかもしれない。タロウは確かに強い。
そうなった時、私は……。
だからこそ……。
「ふぅ……。タロウが旅立って一ヵ月……。そろそろ動き出さなきゃいけないわね」
私にはやらなければいけない事がある。
今のこの国は腐っている。いえ、国民は必死に生きている。腐っているのはこの国の王侯貴族だ。
私の部屋にノックの音が響く。
「なにかしら?」
「ネリー様。レッグ様からの報告です」
レッグさんから……何かあったのかしら。
レッグさんにはタロウに殺されたエレンの両親に最期を伝えて貰おうとテリトリオに向かってもらったわ。
もう、帰ってきているの?
いえ、いくら何でも早すぎる。往復なんてできるはずのない日数だ。
何かあったの?
私はレッグさんからの報告書を見る。
そこにはテリトリオが滅びていた事が書かれていた。
どういう事?
まさか、マイザー王国がテリトリオを滅ぼしたの?
マイザー領であるテリトリオから聖女が現れたから?
勝手にファビエに行ったから報復されたの?
「ネリー様。これは口頭で伝えてくれと言われたのですが……。この世界の教会を滅ぼそうとしている少女がいるそうです」
「教会を? 一人で? いくら何でも無茶苦茶じゃないの?」
この国の教会は大きい。
そして、世界にはたくさんの教会がある。
そ、そんな無茶な……。
「何かの間違いじゃないの?」
「私もそう思います。しかし、テリトリオの町が滅ぼしたのは、その少女だそうです」
「な、なんですって!?」
テリトリオを……一人の少女が滅ぼした?
ちょっと待って……。
エレンの最期の言葉を思い出して……。
『レティ……ごめんね……大好きだったよ……』
「テリトリオと言えばエレンの出身地……。もしかして……」
その少女が……エレンの言っていたレティ……?
そうだとすれば……。
「分かったわ。レッグさんに手紙を書くから少し待っていて」
私は急いで紙とペンを用意する。
そして、その少女に向けた伝言を書き始める。
私が急いでて手紙を書いていると、兵士が口を開いた。
「はい。それともう一つ情報が……」
「なにかしら?」
「レッグ様は国王にも少女の事を伝えたそうです」
「……」
お父様にも?
……。
という事は、レティさんの力が強大という事?
お父様に伝えたという事は警告かしら……。
もし、力を持っているのなら、レティさんをできれば仲間に引き込みたいわね。
私は手紙を書き終えて兵士に渡す。
「この手紙を今すぐにレッグさんに渡してきて。お城の周辺にいるんでしょう?」
「はい。教会に向けて挙兵している様です」
「挙兵? レッグさんは何を……。頼むわよ。急いでね」
「はい」
兵士に手紙を渡して一時間。
レッグさんが私の部屋に入ってきた。
「よぅ。ネリー姫」
「レッグさん。話を聞かせて」
「あぁ」
レッグさんはレティシアという少女の事を話してくれた。
一人でテリトリオを滅ぼし、人を殺す事に躊躇がない。とてもじゃないけど信じられない……けど、信じなきゃいけない気がする。
しかし、レッグさんがここにいるという事は……。
「教会に挙兵したと聞いたけど……」
「あぁ。レティシアちゃんの為に教会を囲んだ。だが、国王派の騎士が来たから下らせた」
「という事は、教会にはレティシアさんだけがいるという事?」
「あぁ。殺されるだろうな……」
「なんですって……!?」
れ、レッグさんはレティシアさんを見捨てたの!?
私はレッグさんを睨む。
「おいおい。何を勘違いしているのか知らんが逆だぞ。俺が殺されると言ったのは騎士の連中だ」
「え!?」
「あの子なら騎士連中くらいならアッサリと殺せるだろうな」
そう言ってレッグさんは窓の外を見る。
「教会ならここから見えるはずだ」
確かにこの部屋からは教会が見える。
教会からは煙が上がっている。いえ、燃え上がっている?
アレをレティシアさんが?
ちょっと待って、まだ……。
「突入してから一時間も経っていないわ。もう教会が燃え上がっている。突入した瞬間に火をつけたの?」
「いや、違うだろうな。殺し終わったから、焼却しているだけだ」
「そ、そんな!? この短時間で神官を殺し尽くしたの!?」
「そうだろうな……。あの子の目は暗く深く濁っている」
暗く深く濁っているか……。
私はレティシアさんの事をよく知らない。だけど、町一つ滅ぼすほどの憎悪を持っているのは明白だ。
その憎悪の根源は……エレンでしょうね。
エレンが直接的な原因であれば……。
「……あの子はこの国の事も憎いのでしょうね」
「そうだろうな。確かに聖女エレンを襲ったのはタロウだ。そして自ら命を絶った。だが、全ての原因はタロウを召喚したこの国だ……」
「そうね。はぁ……、私としてもこの国を失うわけにはいかないわ……。レッグさん、レティシアさんに、『このお城を壊したら貴女も困る』と伝えてくれない?」
「なに? あの子とこの国に何の関係があるんだ?」
「あるのよ……。レティシアさんが困る理由が一つだけ……」
レッグさんにも話していない……。
この国にはエレンのお墓がある。公にすれば教会や貴族共に何をされるか分からないから、この事実は私以外に誰も知らない。お墓は遠い国の冒険者を騙して作らせた……。誰も知られていないはず……。
「わかった。そこは俺に任せておけ……。ネリー姫、クーデターを早める事にしよう」
「え?」
「あの子の力は俺達が思っている以上に強い。だからこそ、利用しよう」
この国に憎悪を持っていて濁った目をした少女……。
その子を利用……危険すぎる。
「危険じゃない?」
「危険だな……。だが、このまま放っておけばクーデターができなくなる。そうなったらこの国は終わりだ……」
そ、そうね……。
もう引き返せないモノね……。
「分かったわ。全員にそう伝えるわ……」
「頼んだぞ……」
レッグさんはそう言って部屋を出て行った……。
そうね……。
もしもの時は私の命を使えばいい。
それから数時間後、レッグさんは一人の少女……いえ、幼い女の子を連れてきた。この子がレティシアさん?
黒い長い髪の毛で、可愛らしい顔をして普通の女の子の服を着ているけど……暗く濁った目をしている。
笑顔だけど……心から笑っていない。
正直、怖いわね。
でも……。
それ以上にこの子を放っておけない……。
この子がエレンの親友だからというのもあるけど、この子には幸せになってもらいたい。
この子に暗く濁った目は似合わない。
どうしたのかしら……。こんな気持ちは初めてね。
さて、この子を利用する事が吉と出るか凶と出るか……。
「貴女がレティシアさんね」
「そうですよ……」
暗く濁った目をした少女は口角を釣り上げて笑っていた……。
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