第29話 姫様。これは必要ですか?


「ネリー姫!! そのガキは勇者である俺に歯向かった!! なぜ姫の隣にいる!?」


 あのウジ虫の名前はタロウとか言いましたっけ?

 ウジ虫は姫様に詰め寄ろうとしますが、レッグさんが間に入った事で、ウジ虫は顔を青ざめさせて、足を止めます。


「なぜ冒険者であるレッグがその場にいる!? そもそも姫が座っているのは玉座じゃないか!! 国王陛下はどうした!?」


 国王?

 あぁ、あのツルツルですか。

 ツルツルはとっくに死にましたが、ウジ虫はその事を知らないのですね。


「国王は国を混乱させた罪で処刑しました。今は私が国王です。勇者タロウ……、魔王討伐の進捗を報告しなさい」


 進捗も何も、魔王は私が倒してしまったので、ウジ虫はどう答えるのですかね?


「な!? 処刑しただと!? ま、まさか、クーデターか!? 姫!! 判断を誤ったな!?」


 クーデターはクーデターですが、判断を誤ったかどうかを考えれば、どうなんでしょう?

 レッグさんが言っていましたが、ツルツルが国王の時は、国民は苦しんでいたそうですよ。


「判断を誤った? それは貴方にとってというだけでしょう? 貴方が勇者で、前王の保護下にいたから、そのような考えになるのでしょう? 国民にとっては、前王の内政の方が問題だったのです。私が王になった以上、今までのように、なぁなぁで済むと思わないでください。それを踏まえた上で聞きますが、魔王討伐はどうなりました?」


 姫様の問いにウジ虫は何も言いません。

 ツルツルがいなくなった事を納得していないみたいですね。


「ふざけるなよ。姫は俺の妻になる女のはずだ。その玉座は俺のモノになるはずだったんだ!!


 ウジ虫がそう叫ぶと、レッグさんが剣に手をかけます。

 しかし、レッグさんを姫様が止めます。


「レッグさん。押さえてください。レティも抑えているんですから」


 姫様に止められたのでレッグさんは、剣から手を放しました。目を閉じて怒りを鎮めているようです。


「貴方は勘違いしているみたいね。貴方は本当に勇者なの?」

「な、なんだと?」


 はい?

 ウジ虫は勇者ではないのですか?


「貴方が勇者と呼ばれる所以は、魔王討伐の旅に出ているからです。魔王を倒す為ならばと国が協力しているにすぎないのです。しかし、貴方は一体何をしているのですか? 各町で問題を起こし、この国では殺人まで起こす。そんな貴方がなぜ勇者を名乗っているのですか?」


 姫様がそう言うと、露出狂の女が「ネリー。言葉が過ぎるわよ?」と馬鹿にしたように笑います。


 あの女、どつきましょうか……。そう思ったのですが、姫様は冷静に露出狂に「言葉が過ぎる? 貴方達が何の成果を上げているの?」と笑い返します。

 そんな姫様の姿を見た露出狂は高笑いを始めます。


「あんたが思うほど魔族は弱くもないし、魔王退治は簡単なものではないの。あんたはこの城の中にいるだけだから知らないだろうけど」

「姫様。あの露出狂は何を言っているんですか?」


 露出狂ですから、頭までおかしいのですかね? 

 私が露出狂を指さして首を傾げていると、姫様は笑い出します。


「あはははは。た、確かにソレーヌの格好を見たら、露出狂にしか見えないわよね」

「な、誰が露出狂よ!!」

「え? 自分の格好が露出狂でなければ、なんですか? 鏡を見た事すらないんですか? 哀れですね」


 こんな露出狂如きが、姫様に偉そうにしているのが、ムカつきました。

 

「レッグ!! そこにいるガキは、勇者である俺に暴行をした奴だ!! 殺せ!! 処刑しろ!!」


 ウジ虫が怒りの形相でそう怒鳴ると、「そうよ、そうよ」と露出狂とその他女が、野次ってくる。

 私は気分が悪くなったので、ウジ虫に向かって殺気を飛ばします。


「ひぃ!?」


 この程度の殺気で、顔を青ざめるなんて、どれだけ弱いんですか。

 このまま殺してやりましょうか……。


「レティ……。まだよ」


 姫様は笑顔で私を止めます。そして、ウジ虫を睨み「一ついいかしら?」と話し始めました。


「レティは私にとって大事な存在なの。勇者であるタロウ。貴方と比べる必要もないくらいにね? もう一度聞くわよ。魔王討伐はどうなっているの?」


 姫様がウジ虫に聞きますが、ウジ虫は聞こえないふりをしているのか、答えようとはしません。ふざけた奴ですね……。

 私はもう一度さっきをぶつけますが、その時、紫頭が部屋に入ってきました。


「女王……。この書類なんだがな……。ん? アレ? 取り込み中だったか?」


 間が悪い紫頭ですね。後でお仕置きしましょうか。と思っていたのですが、ウジ虫一行の武闘家っぽい服を着た女が紫頭を見て叫びます。


「あ、あんたは魔王四天王!!? タロウ様!! この城は四天王に乗っ取られています!!」


 武闘家女のセリフにタロウが姫様を睨みつけ怒鳴ります。


「き、貴様!! まさか、ここまで追いかけてくるとは……ネリー!! 今解放してやるぞ!!」


 ウジ虫が、良く分からない言葉を発します。しかし姫様を呼び捨てにするとは殺しますよ。

 しかし、紫頭とウジ虫は顔見知りだったんですね。

 はて?

 紫頭も何が起こっているのか良く分かっていないですねぇ……。


「紫頭。ウジ虫を知っているんですか?」

「うーん。見た事あるような無いような……」


 紫頭は、腕を組んで思い出そうとしているみたいです。


「手伝いましょうか?」


 私は紫頭に近付きます。


「ま、待て。お前、何をする気だ?」

「え? 頭を勢い良く振れば思い出すかな? って」


 私は紫頭の頭を掴もうと近付きます。


「ま、待て!! お前にそんな事をされたら死んでしまう!!」


 私と紫頭のやり取りを見ていた姫様が笑いだします。


「ははは。レティ、別にいいわよ。ケンがもしタロウ達に会っていたとしても、覚えていないという事は、タロウ達は、覚えられないくらい、どうでもいい相手だったという事でしょう? タロウ達に出来る事といったら、王都で犯罪を起こすくらいだものねぇ」


 姫様は笑っていますが、冷たい目をしています。よほど、タロウ達の事が嫌いなのでしょう。

 その時、紫頭が急に騒ぎ始めました。


「思い出した!! 俺がファビエに偵察に来ている時に出くわした連中だ。ブレイン様に見つかるなと言われてたから、目撃者であるこいつらを殺そうとして戦闘になったんだ」

「それで?」

「いや。自分を勇者という割には弱すぎてな。勇者に憧れている小物だと思って油断してたら逃げられてな」


 私は紫頭の頭を掴みます。


「貴方、前に勇者と対峙した事があると言ってましたよねぇ……。話が違ってるじゃないですか?」


 私は軽く、掴んだ頭を高速で揺らします。


「ぐぎゃ!!」


 紫頭はその場に倒れます。

 しかし、軽く振っただけなのですぐに復活しました。


「酷ぇ事をしやがる。あの話は、俺の勘違いだったんだよ」

「勘違い?」

「あぁ。俺が勇者と思っていたのは、実はレッグだったんだよ」


 はい?


 私はレッグさんに視線を移します。

 レッグさんは、申し訳なさそうに「俺も忘れてたんだが、一度ケンと戦った事があったんだ」と苦笑いを浮かべています。

 なるほど。

 私は紫頭を睨みつけます。すると、紫頭は目を逸らしました。


「そ、それより勇者。良い事を教えてやるよ。俺は四天王はおろか、幹部ですらないぜ? ブレイン様の右腕と呼ばれてはいたが、魔王軍の部隊長レベルだ」

「な、なんだと?」


 ウジ虫は紫頭の話を聞いて顔色が悪くなります。その顔を見た姫様が、呆れた顔をして、私の方を見ます。


「タロウからは有意義な報告を受けれないから、魔王の事を報告してくれない? レティ」

「あ、はい」


 私が元の場所に戻り、報告を始めようとすると、ウジ虫が顔を真っ赤にして怒鳴ります。


「ネリー。現実逃避は止めろ!! こんな小娘に魔王の事など判るはずないだろうが!! その魔族が部隊長という事は魔王が強大な力を持つ事に気付かないのかよ!?」

 

 ウジ虫はそう言った後、聖女であるマリテを抱き「それに、あのエレンと言う偽聖女が勝手に死にやがって、迷惑してんだ。少しくらいは良い思いをさせろってんだ」と悪態をほざきました。


 はぁ……?


 私が動こうとした瞬間、姫様が真っ先に反応しました。私の顔をジッと見ています。


「だ、大丈夫ですよ。まだ殺しません」


 私はそう言って、姫様に笑いかけます。


「さて、報告ですが……。紫頭。貴方は魔族ですから、私の言う事が真実かどうか位はわかってくれると思います」


 紫頭は頷いて「そりゃあ、俺は裏切った魔族だからな」となぜか胸を張ります。アホなのでしょうか?

 私は、魔王討伐……、いえ、封印の事を説明します。


 報告が終わると、紫頭は「四天王含めて全て正しい。魔王様が死にたがっていたのは、魔族の中では有名だったからな」と俯きます。

 姫様も、魔王の運命を哀れんでか、魔王がいなくなった事を素直に喜べないようです。

 ただ、ウジ虫一行だけは私の報告を信じられないらしく、怒鳴り散らしてきます。


「ふざけんな!! 魔王を倒せるのは俺だけだ!! こんな小娘に何ができる!!」


 そう言って、剣を抜きます。

 剣を構えたタロウにレッグさんが怒鳴ります。


「貴様!! ネリー女王の前で剣を抜くとは!!?」

「うるせぇ!! この小娘が嘘をついている事を証明してやるよ!! ここで殺してやる!!」


 私は姫様の前に出ます。


「姫様? この人は必要・・ですか?」


 そう聞くと姫様は、首を振ります。


「そうですか……。ならば仕方ありませんね」


 私は二本の剣を抜き、口角を釣り上げてしまいます。


「さて、エレンの仇でも討ちましょうかね?」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る