第28話 勇者の帰還だそうです。あ、さっきぶりですね。


 ウジ虫と会う前に、私は服を着替える事になりました。お風呂から上がった私は、タオルを全身に巻いただけなので、マントみたいになっていたのでカチュアさんが着替えさせてくれる事になりました。


 用意されていた服は、可愛らしいピンク色のワンピースでした。少し動きにくそうですね。


「レティシア様、かわいいです」


 カチュアさんが褒めてくれるのは嬉しいのですが、国王である姫様の横に立つのにこの格好でいいものなのでしょうか?

 カチュアさんに聞いてみます。


「ネリー様が用意した服なので、大丈夫ですよ。それに、レティシア様は特別なので大丈夫です」


 カチュアさんがそういうのなら大丈夫なのでしょうが、特別ですか……。まぁ、私などそのままだと小汚い小娘ですからね。少しでも格好をかわいくして、見た目だけでもまともにさせようとしているのでしょう。


 私は魔剣を適当な剣の鞘に入れ、二本の剣を背中に背負って姫様の所へと向かいます。

 そんな私を見て、姫様はため息を吐きます。


 はて?


「レティ……。せっかくのかわいい格好なのに、その背中の剣は……。ギャップがあって、なお可愛くて良いわね……」


 姫様は何故か顔を押さえています。そんな姫様をレッグさんが呆れた目で見ていました。


「あれ? 紫頭はどうしました? 逃げましたか? 逃げたのなら殺しに行きますけど?」


 私がそう聞くと、レッグさんが「そんな恰好をしていても、口の悪さは、変わらないのな」と呆れた顔で私を見ます。


「アイツなら、内政の書類を整理しているはずだ。タロウを威圧するために、ネリーの隣に立たせても良かったんだが、タロウはアホだからな。ただでさえ、問題を起こしそうなのに、魔族がここにいたら、騒ぎ出すだろうからな……」


 なるほど。それなら仕方ありません。


「で? 私はどこに立てばいいんですか?」


 私がそう聞くと、姫様が「私の隣よ」と少し興奮気味に言います。どうしたのでしょう?

 私が、姫様の横に立つと、姫様が私の頭を撫でてきます。


「こうしていると、本当にかわいい子なのにねぇ……」と呟きました。

 そう言われると、少し照れますね。あ、あの事を聞いておきましょう

「そういえば、王都でウジ虫が女の人を殺したみたいですが、これは許されるんですか?」


 ツルツルが王様の時は許されていたみたいですけど、姫様はどうす……「許すわけないじゃない。でも、アレは一応勇者なの。兵士や騎士団に拘束をお願いしても、強すぎて拘束できないのよ」と不機嫌そうに話します。

 という事は、ここで戦闘になった場合、ウジ虫以外の死者が出そうですね。それは困ります。


「えっと、この部屋にいる皆さん。ちょっと集まってもらえますか?」


 私は、部屋の中心に人を集めます。そして、思いついた魔法をこの部屋にいる人達にかけます。

 姫様達は自分の体が光っているのを不思議そうに見ています。


「レティ? 今のは?」

「はい。結界魔法です。この魔法があれば、ウジ虫どもの攻撃は一切通用しません。それと、兵士さん達には身体強化の魔法をかけておきました。ウジ虫の動きがどれほどのモノかは知りませんが、魔族四天王の攻撃程度なら避けられるはずです」


 姫様とメイドさん達には、魔剣の力を使った強固な結界魔法。おそらく、私の全力でも、この結界破る事は出来ません。

 レッグさんや兵士さんには、強制身体能力強化の魔法。後で筋肉痛が酷くなりそうですが、気にしません。これも経験です。男の子ですから耐えられます。


 私がそれぞれの魔法の説明をすると、宮廷魔導士みたいな女の人が驚いています。

 なんでも、私が今言った魔法は、実現不可能と言われている魔法だそうです。


「レティは、どうしてそんな魔法が使えるようになったの?」

「さぁ? 少なくとも魔王を封印する少し前までは初級魔法しか使えなかった筈なんですが、魔王と戦っているうちに色々な魔法が使えるようになりました」


 姫様は私の言葉に呆れますが、レッグさんは魔王の封印について気になったようです。


「レティシアちゃん。魔王を殺していないのか? ケンみたいに生かしておいたのか?」


 私が口を開こうとすると、扉の外が騒がしくなります。そして、扉が勢いよく開きました。


「勇者様の帰還です。なぜか勇者様は怒り狂っていま……ぎゃあああああ!!」


 兵士は何者かに斬られたのか、その場に崩れ落ちます。


「邪魔だ。さっさとどけ!!」


 兵士さんが苦しんでいるのに、誰か蹴り飛ばされます。酷い事をしますね。


「おい。勇者様が帰還したというのに、パレードも式典もないってどういうわけ?」


 部屋に入ってきたのは露出度の高い鎧? を着た女性でした。ピンク色の髪の毛で美人さんなのですが、目つきが鋭く悪態をついています。そして、床で苦しむ兵士さんを蹴ります。

 どうやら、この人が兵士さんを斬ったみたいですね。


「仕方ありませんよ。ソレーヌ様。この城の兵士は愚図ばかりなんですから」


 続いて入ってきたのは、真っ白のローブを着た、茶色い髪の毛の魔導士? 風の女の人。「あれは大魔導士のジゼルだ」とレッグさんが説明してくれました。

 後の二人は、男の人に肩を抱かれています。黒髪の女性はアルジー。

 もう片方には、エレンの代わりに聖女になったマリテという女性がニヤニヤしながら入ってきました。


 そして、その中心にいた男の人……。ん? あの人は……。


「宿屋の横にいた変態さんじゃないですか?」


 私は、男の人を指差します。

 そうです。さっき、股間を蹴りつぶしてあげた変態さんです。


「き、貴様!! さっきの凶暴な女!!」


 失礼な人ですね。下半身に汚いモノをぶら下げた変態さんに凶暴扱いされたくありません。


「レティ……。あれが勇者タロウよ」


 へぇ……あれがウジ虫ですか……。

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