第30話 勇者一行、弱すぎです。


 ウジ虫達は、それぞれ戦闘態勢に入り、私を憎々しい目で睨んでいます。


 その目……いいですね。

 何やらゾクゾクしてきます。


「そんな目で睨んでも怖くないですよ。所詮はウジ虫なので怖くもないですし」


 私はウジ虫達に殺気をぶつけます。この部屋全体に殺気を放つ事も可能なのですが、姫様達にまで影響が出ますから、そんな事はできません。


「貴方達は魔王と比べると脆弱ですね。彼は、自分の運命に葛藤しながら、自分の役割をこなそうとしていました。それなのに、貴方がたはどうですか? 自分の欲望に忠実で、周りに迷惑ばかりかけているようですが、貴方達は自分たちの役目を果たしていますか?」


 まぁ、魔王を封印してしまいましたから、もうウジ虫達には役目を果たす事はできないのですが……。

 あ、大事な事を忘れていました。


「姫様。下がっててください。ウジ虫達は低能ですから、姫様を人質に取ろうとするかもしれません」

「待て。タロウ達は仮りにも・・・・勇者だぞ? そんな卑劣な真似はしないだろう?」

「卑劣? 町でナンパというのをして、断られたからといってその女の人を殺してしまうような男は卑劣じゃないんですか?」


 あの女の人は何か悪い事をしたのでしょうか?

 別に殺人を糾弾するつもりはありません。私だって罪もない魔族を殺しつくしてきましたからね。


「私もウジ虫もよく似ていますよ。私は復讐の為に敵を殺し尽くす獣ですし、ウジ虫は欲望のまま生きる獣です。どちらも獣ですね」


 私はそう言ってケラケラ笑います。

 さて、殺しますか……。そう考えた時、姫様が私を止めます。


「レティ、一つだけタロウに言いたい事があるから、ちょっと待っててくれない?」

「はい」


 私は剣を抜こうとしたのを止めます。それを見て、姫様はレッグさんの前に出ます。


「タロウ。貴方は自分が勇者だと言い続けているけど、私は貴方を勇者とは認めない。勇者とは何かを成して初めて認められる称号なのよ。私たちにとって……ファビエ王国にとって、教会という悪人の温床だった場所を潰し、腐った国王を倒し、魔王まで封印したレティこそ勇者なの」


 へ?

 私は勇者は嫌いなのですが……。


 私が困った顔をしていると、姫様は苦笑します。


「まぁ、この通りレティは勇者を嫌っているんだけどね。そんな彼女に対して、貴方は何ができるの? 勇者として何をしたの?」


 姫様の言葉に悲鳴に近い声を上げたのは、エレンの後釜のマリテという名の聖女でした。


「そ、そんな!? 教会は、人々の平和のために存在しているのです!! それにタロウ様はアブゾル様に認められた存在です。貴女達は、神に背くというのですか!!」

「そうね。神に選ばれた勇者タロウは、魔王に苦しめられている人や教会にとっては希望の光になるでしょうね。けれどね……。タロウが魔王を倒す為に旅立って各地で活躍でもしていたら、貴女の言う事も理解できるわ。でも、タロウがやっていた事は、犯罪ばかりじゃない」


 姫様の言葉に力が入ります。


「は、犯罪ですって……?」


 露出狂が肩を震わせて怒っているみたいです。


「だってそうでしょう? ソレーヌ。貴女は身近でタロウの所業を見てきているわよね? 貴女だって一国の王族という立場でしょう? もし、自分の国の国民がタロウのような口だけの勇者に殺されたりしても、なんとも思わないの?」


 姫様が、冷たくそう言い放つと、露出狂は黙ります。

 そんな事よりも、ソレーヌ姫って言いましたか?

 こんな露出狂なのに姫なんですか!?


 気まずそうな顔をして、目を背ける露出狂を姫様がさらに冷たく言い放ちます。


「もし、王族である貴女が、国民を守らずに笑っていられるのであれば、貴女の国も地に落ちたものね。貴女のお父様は聡明な御方だと思っていましたが……」

「な!? お、お父様は……」

「貴女の行動が、お父様の名まで傷つける事になぜ気づかないの?」

「くっ……」


 露出狂は何も言えずに悔しそうにしていますが、武闘家の女が前に出ます。


「全く、うるさい姫だね。タロウ。こいつらを殺そうよ。別にこの国の勇者じゃなくてもいいでしょ? ソレーヌの国で勇者をすればいいじゃん」


 私達を殺すといいましたね。

 もう我慢しなくてもいいですよね。


「そうね。私達と敵対する事を後悔すればいいのよ。タロウ。戦うわよ」


 魔導士の格好をした女、確かジゼルでしたっけ? 武闘家の方はアルジーでしたかね? 

 この二人は、私と戦うつもりなようで、アルジーの方は構えています。それに、ジゼルは魔力をため込んで、詠唱を始めます。


「そうだな。ネリーは、こいつらを殺した後にゆっくり味わわせてもらうさ」


 ウジ虫は、剣を掲げます。


「聖剣『プッサン』よ!! 力を示せ!!」


 プッサンと呼ばれた聖剣は、淡く光り輝いています。

 しかし、しょぼい光り方ですねぇ。


「姫様。これ以上の会話は無駄です。所詮は獣……、いえ、ウジ虫です。ウジ虫の群れに言葉は通じません。レッグさん、姫様を下がらせてください」


 レッグさんは、姫様を連れて玉座にまで下がります。

 私は背中の剣を抜きます。勿論二本共です。


「ウジ虫一行。いえ、失礼しました。勇者一行さん。全員でまとめてかかってきてください。貴方達は、一番弱い魔族と比べても、どうしようもないほど弱いのですから、全員で来ないとすぐに死にますよ?」


 私が馬鹿にしたように言うと、アルジーが前に出ます。

 

「へぇ。随分と余裕だね。私はこう見えても、負け知らずの武闘大会の覇者なんだけど?」

「そうなんですか? まぁ、貴女程度のウジ虫三号が優勝するような大会など、蟻んこ同士のじゃれ合いみたいなものでしょう?」


 私は魔剣をアルジーに向けて扇ぐようなそぶりをします。

 するとアルジーの魔力が一気に高まりました。

 こ、これはいけません。


「あ、頭に血が上っているところ、悪いんですが……」

「いまさら謝っても遅いね」


 謝る?

 アホですかね。


「いえいえ。頭に血が上って一人でかかってこないでくださいね。貴女一人なんて、ゴミと変わりませんから」


 アルジーは今にも飛び込んできそうです。

 どうしますかね。


「ウジ虫……失礼。勇者は最後に苦しめて殺しますから、勇者を盾に戦えば、少しはまともな戦闘になると思いますよ?」


 私はなんて優しいんでしょう。ウジ虫達にアドバイスまでしてあげるなんて。


 真っ先に動いたのは、魔導士でした。


「もう謝っても遅いわよ!! 『ヘルフレア!!』」


 魔導士の杖から巨大な黒い火球が飛んできます。

 これは……彼女の中では凄い威力なのでしょうね。私のファイヤーボールよりも弱そうですが……。

 私は火球を魔剣で斬ります。

 火球は真っ二つに割れた後、霧散します。


「な、なんですって!?」


 魔導士は、魔法を消された事に驚いている様です。


「ジゼル!! 次の魔法を使うんだよ!!」


 そう言って、武闘家と露出狂が同時に攻めてきます。

 それで良いんです。私は、露出狂の腕を斬り落とし、武闘家の腹を蹴ります。


「ぎゃあ!!」「ぐふっ!!」


 私は、腕を斬られて転がっている露出狂の背中を踏みます。


「姫様。これも姫と聞きましたが、殺しても問題ないですか?」


 一応王族だそうですからね。ちゃんと聞かなきゃダメです。

 姫様は、無言で頷きます。


 姫様の許可を得てから、露出狂の首を掴み持ち上げます。

 露出狂は、怯えた顔をしていますね。


「い、いや……。た、助けて……」


 何か言っていますが、笑顔でこう告げてあげます。


「良かったですねぇ……。一番最初の人は苦しまずに死ねますよ」


 私は、露出狂の心臓を剣で一突きします。

 露出狂は、ビクンビクンと身体を痙攣させながら涙を流し息絶えました。


「はい。一人目」


 露出狂をその辺に捨てて、笑顔で武闘家を見降ろします。武闘家は、腹に入った一撃で、実力差がわかったのか知りませんけど、股間を濡らしながら後退ります。


「あ、あ、あ、あ、あ……」


 武闘家は涙を流しています。


「どうしましたか? さっきまでは威勢が良かったじゃないですか。あ、もしかして、自分達は死なないとでも思いましたか? 残念。簡単に死にますよ?」


 私はそう言って、武闘家の胸ぐらをつかみ上げます。


「武闘会の覇者でしたっけ? そんな人が一撃で漏らしちゃダメでしょう?」


 私はそう言って、武闘家を地面に叩きつけます。


「ぎゃあ!!」


 武闘家の骨が何本か折れたみたいで、痛そうに転がっています。


「あれ? 魔王軍の指揮官でも、今の攻撃を何発かは耐えれましたよ。でも、武闘大会の覇者でしたっけ? 偉そうにしていた貴女は一撃でこの様です」


 私は武闘家の腹を蹴り、ウジ虫の元へと飛ばします。

 武闘家は、苦しそうにしていて聖女が回復魔法を使い始めました。

 魔導士は茫然としています。


「アレ? 詠唱はどうしましたか? 魔法による追撃をしなければ、一番最初に襲ってきて殺された露出狂の意味がなくなりますよ?」


 とはいえ、もう撃たせるつもりはありませんけどね。

 私は魔導士の目の前に一瞬で移動して、魔導士の腕を掴みます。


「勇者であり、勇者一行で人間の為に戦っているというのであれば、仲間の死すら利用しなきゃいけませんよ? もう遅いですけどね? さようなら」


 掴んだ腕から魔力を魔導士に流し込みだすと、慌てだしました。


「は、離して!!」


 そう叫んで暴れ出します。

 離すわけがないでしょう? 私は、魔力を込め続けます。

 魔導士である彼女には、私が何をしようとしているか、分かるのでしょう。


「たしか、魔力というのは、個人個人で違うもので、他人の魔力を注入する行為は痛みを伴うでしたっけ?」


 昔読んだ本にそう書いてありました。本当は一瞬で焼き尽くす事も可能なんですが、露出狂よりもアッサリ殺してしまうと、嘘つきになってしまいますから。


「い、痛い痛い痛い痛い!!」


 魔導士は魔力を流し込む度に痛がります。

 あの本は正しかったんですねぇ……。

 その後、数分間魔力を流し続け、痛みで泣きじゃくる彼女を、炎魔法で焼き尽くしておきました。


「はい。これで二人目……」


 私は、笑顔で残った三人に視線を移しました。

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