教会編 5話 何を言っているのですか? 殺しますよ?
カチュアさんが失神させたマイザーの馬鹿王子を、兵士さん達が拘束します。
別に目を覚ましても逃げないとは思いますが、いちいち騒がれるのは鬱陶しいので、拘束して猿轡(さるぐつわ)で口を塞いでおきます。
そういえば、さっきカチュアさんが馬鹿を平手打ちした時に、なぜか「ありがとうございます!!」とお礼を言っていました。
なぜ、殴られてお礼を言うのでしょうか?
カチュアさんは、そんな馬鹿を汚い物を見る目で見ていました。
「兵士長。ネリーを連れて来てくれないか?」
「分かりました」
兵士長さんは、姫様を呼びに行くために、訓練場を出ていきました。
「レッグさん? どうして姫様を?」
姫様にこんな馬鹿を会わせるのは嫌なんですが?
「仮にもこの馬鹿はマイザー王国の第三王子だ。ネリーが謁見室から追い出した後に、勝手にここに来た可能性がある。もし、カチュアがやった事で外交が拗れたら面倒な事になるからな」
「カチュアさんは悪くありませんよ」
「分かっているさ。この馬鹿は、カチュアとレティシアちゃんを間違えたんだろうよ」
私と?
なぜ、カチュアさんと私を間違えたのでしょうか?
「こいつは、マイザーからレティシアちゃんを手に入れる為に
はい?
とても不愉快な事を言われた気がするのですが……。
「こいつをもう殺していいですか?」
「ダメだ。さっきも言ったが、こんな馬鹿でも一応他国の王族なんだ。勝手に殺すわけにはいかん……」
ふむ。
確かに一理ありますね。
暫くすると、姫様が心底嫌そうに、訓練場に入ってきます。
そして、馬鹿を見ると「何をやっているんですか? ファニー王子……」とため息を吐いていました。
「レティ、王子が気を失っているみたいだから、起こしてくれる?」
「はい」
私は馬鹿のお腹を殴ります。すると馬鹿が咳き込みながら、目を覚まします。
目を覚ました馬鹿は姫様を一度見た後、急に偉そうな顔になり「マイハニーと楽しんでいるんだ。邪魔をしないでくれたまえ。おい。そこの小さいの。貴様はマイハニーの従者だろう? 俺にお茶を持て」と命令してきます。殺してしまいましょうか?
私が行動する前に、カチュアさんが股間を踏み潰す勢いで踏みつけました。
「おっほぅ!!」
馬鹿はなぜか嬉しそうです。
後ろで姫様とレッグさんが「お、おい。あの王子って……」「えぇ……かなり、変な性格をしているわよ」とボソボソと話しています。
なるほど変態さんでしたか。
それならば、蹴られて快感を覚えるのも仕方ありませんね。
「カチュアさん。その馬鹿は、痛みを与えれば与えるほど快感を覚える変態さんです。気を付けてください」
私がカチュアさんにそう話すと「誰が馬鹿だ!? 貴様、不敬罪で処刑するぞ!!」と怒鳴ります。カチュアさんは、鼻をへし折る勢いで膝蹴りを顔面に入れます。
今の一撃で、馬鹿は再び失神してしまいました。
「カチュア……。レティ、もう一度起こして……」
「はぁ」
私は今度はお腹を蹴ります。
馬鹿は涎を垂らしながら起き上がります。気持ち悪いです。
「ファニー王子。貴方は先ほどから勘違いしているようだけど、そちらの小さい子がレティシアよ」
「な……んだと? 私の嫁がこんなちんちくりんのガキだと? 私は幼女趣味は無いのだが?」
私は馬鹿を平手打ちします。
「ぼほぉ!?」
「誰が幼女ですか。まったく失礼な人です」
そもそも、嫁って何ですか?
本当にここで殺しておきましょうか? と、私が何かをする前に、カチュアさんが馬鹿を蹴っています。
「カチュア。その辺にしておいて。それでも第三王子だから。で? ファニー王子。先程の話は、お断りした筈ですが?」
姫様が、馬鹿にそう話すと、馬鹿がキリっとした顔に代わりました。カチュアさんの膝蹴りにより鼻が折れているのか、鼻血は止まらないようですが。
「レティシア嬢は、我が国に籍を置いている。これは、あの町の住民からの証言で明らかだ。貴方がたは、我が国の国民を不当に監禁しているのだ。その国民を取り返しに来る事は何もおかしい事ではない」
は?
私が不当に監禁されている?
……殺しますよ?
私は殺気を放ちながら馬鹿を睨みますが、姫様が私の肩に手を置いて「私に任せて」と優しく言ったので殺気を押さえます。
しかし馬鹿のさらなる発言で、私の怒りがまた増幅されます。
「そもそも、非業の死を遂げたエレン嬢も同じだ。先王であるファビエ王が起こした愚かな召喚により現れた、偽勇者であるタロウの我が儘により、我が国の国民を不当に凌辱し死へと追い込んだ。我が国の国民へのこの仕打ち、どう責任を取るつもりか?」
なるほど。エレンの死を……
どうしましょう……。怒りで我を忘れそうです。
私の
「死に追いやった? それはおかしいですね。
姫様が、そんな事までしていたなんて知りませんでした。
「更に、エレンの死後、タロウや教会に不当に貶められていたエレンの遺体を家族の元に返そうとした時も「そんな、偽聖女を名乗るような愚民、我が国民でないわ」と話を聞こうとしなかったのも貴方がたです。この弁解はどうしますか?」
馬鹿は何も言えないのか、肩を震わせます。
姫様の追撃はまだ終わりません。
「レティは自らの復讐を遂げただけです。しかし、言い方を変えれば、レティの復讐の矛先に貴方がたも含まれていてもおかしくないのですよ?」
ん? どういう事ですか?
私が首を傾げていると、姫様が私に呟きます。
「ごめんね。レティ。今まで貴女に黙っていた事が一つだけあるの。私は国を守る立場でもあるから、復讐の相手を一つ隠し続けたのよ」
隠した……ですか。しかし、国を守る立場の姫様ならば、それは仕方のない事です。
「いえ。姫様の考えは正しいです。以前の私ならば、気にせずマイザー国王を殺していました。姫様は正しいですから謝る事はありません」
「ありがとう。レティ」
姫様の私を抱きしめる力が強くなりました。
「タロウがエレンを見染めた時に、私は貴方がたに「あの男はまだ何の成果を出していない男……いえ、我が王国の国民はあの男によって何人も不幸になっています。マイザー王が拒否すれば、我が父や、教会ですら手を出せない筈ですから、国民の幸せを願うのであれば拒否してください」と進言した筈です。それを「我が国から魔王を倒す勇者の伴侶が出る事は素晴らしい」と話を聞かなかったのは貴方がたでしょう?」
「ふざけるな!! お前の父親が勇者をコントロールしていれば、こんな事にならなかった、それが全てであろうが!!」
私は姫様の腕から抜け出し、エレンを馬鹿に突きつけます。
「姫様。兵士の
私は笑顔で、馬鹿を見ます。
「こいつを殺していいですか?」
姫様は、静かに首を縦に振ってくれます。
ここまで来て、ようやく自分の立場を理解した馬鹿は、暴れ出します。
私は処刑を兵士さんに見せるのはどうかと思いましたが、兵士さん達は怒気を含めた目で馬鹿を見下していました。
兵士さんの一人が私の視線に気づいたらしく「そこの男が何者か俺は知りませんし興味もありません。ただ、我が国の英雄と、国の腐敗を止めてくれた女王に不敬を働いただけの不法侵入者です。そんな正体不明の男が死のうと我々には関係がありません」と言います。私が周りの兵士さん達を見ると、皆頷いています。
「ま、待て!! 俺はマイザー王国の……」
「さようならです!!」
私の剣が、馬鹿の首を斬り抜きます。馬鹿の首は鍛錬場に転がりました。
「はぁ。殺っちまったか。マイザー王国に足を運ぶのは俺の役目だな。レティシアちゃん。この馬鹿の死体を完全に消滅させておいてくれ」
レッグさんは疲れた顔で、姫様を鍛錬場から連れ出しました。これからの事を話し合うそうです。
私は馬鹿の死体を、骨も残さない程に焼き尽くした後、兵士さん達の訓練を再開しました。
この日から、兵士さん達の特訓に対する気持ちが一層強くなったらしく、一気に強い兵士さん達へと変わっていきました。
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