第13話 エレンのお墓だそうです


 ツルツルを殺したその日のうちに、国王の影武者は民衆の前で処刑されました。

 これでファビエ王国は姫様のモノになったようです。私がそう言うと、「国は王族の所有物ではなく、国民の為に存在しているのよ」と教えて貰いました。


 その日は姫様が用意してくれた客間に泊まりました。次の日、私は姫様に呼び出されました。約束通りエレンのお墓の場所を教えてくれるそうです。


 朝早く起きて姫様の部屋に行ってみたのですが、お仕事みたいでいませんでした。

 姫様のメイドであるカチュアさんが紅茶を淹れてくれたのでそれを飲みながら待ちます。

 暫くすると、姫様が少し疲れた顔で戻ってきました。


「レティシアさん、待たせてたみたいね。じゃあ、行こうか」


 姫様は、エレンのお墓がある場所へと案内してくれます。



 エレンのお墓は、お城から少し離れた庭園の隅の方にコッソリと建ててありました。墓標には何も書いてなくて聞かなければ誰のお墓かもわからないと思います。

 けれど……。私にはここにエレンがいるのがわかります。


 事前にお城を調べた時には見つかりませんでしたが、まさか庭園にあるとは思いませんでしたよ。


「ごめんね。私としてはもっとちゃんとしたお墓を用意したかったんだけどね。お父様と教会のせいで聖女エレンの地位は地に落ちてしまっている。だから、このお墓の場所もバレてしまえば荒らされるかもしれなかったのよ……」

「いえ、ここにいるのは分かります」


 姫様は沈痛な表情で、エレンの最期を話してくれました。

 エレンは、ウジ虫に襲われた後、精神が崩壊したそうです。

 ベッドの上でずっと虚ろな目をして「レティ…レティ…」と繰り返していたそうです。

 ウジ虫がエレンに興味を失った後は姫様が看病してくれていたそうですが、ふと目を離した隙に部屋から抜け出し、王城の窓から飛び降りたそうです。


 私の頬に涙が流れます。エレンなんで……。


「飛び降りたのに気づいて、すぐに手当てをしたけど……間に合わなかった。最期の言葉は「レティ。ごめんね。大好き」だったわ。あの子にとって、貴女が一番大切だったんでしょうね。ねぇ、レティシアさん。復讐を止めない?」


 姫様は何を言っているのでしょうか?

 私は……。


「私は聖女であるエレンしか知らない。けれど、あの子は最期まで貴女を想っていた。だからこそ、貴女には幸せになって欲しいと願っていると思うわ」


 姫様は嫌がらせでこんな事を言っているとは思えません。きっと、本心なのでしょう。

 で、でも……。


「無理です。エレンの為でもありますが……いえ、それは言い訳です。本心は私自身の為です。私にはエレンしかいませんでした。エレンは私に色々な事を教えてくれました。忌み子・・・と言われていた私に、初めて優しくしてたのもエレンでした。自分が家族に酷い目に合っていたのに……それでも、私にやさしくしてくれました。だからこそ、エレンを利用した挙句に酷い目に合わせて殺したこの世界が許せません」


 私は、エレンのお墓に背をむけます。これ以上姫様と話をしていると、私の心が折れて復讐を止めてしまいそうになります。

 姫様この人も私に優しすぎます。


 姫様は「ふぅ……。分かったわ」と優しい顔をして私を抱きしめてきます。やはり良い匂いです。


「レティシアさん。全ての復讐を終わらせたらここに戻ってきなさい。私が貴女の帰りを待ってるから」


 私の帰りを待っている?

 

「そうよ。復讐が終わったら暇になっちゃうでしょう? だから、このお城で働けばいいじゃない」

「お城で働くですか。私は忌み子と呼ばれているんですよ。傍に置いておくと、エレンの様に不幸になっちゃいますよ?」


 私はお母さんが殺され町から逃げ出した後、ずっと一人で生きてきました。

 エレンと共に過ごした町の人間からは何度も殺されそうになったし、私の家に嫌がらせも何度もありました。何度も町の人間を皆殺しにしてやろうと思っていましたが、そんな時にエレンと出会い、エレンがいたから町を滅ぼさなかっただけです。

 そんな私が、お城で働く?


「嫌? 私はレティシアさんを気に入ったんだけど。その常識外れた強さも気に入るポイントだけれど、それよりもその真っ直ぐな目が大好きになっちゃってね。それに、このお城で働けばエレンのお墓に自由にお参りもできるわよ」


 姫様は私に笑いかけます。

 


「ありがとうございます。分かりました。でも、いいんですか? 復讐を終えた後の私は、世界の敵ですよ?」

「そうね。貴女は、神に認められた勇者を殺そうとしているものね。でも、いいわよ。クーデターをした時点で、周りの国からは王位を武力で奪い取った強欲な王女と言われるでしょうし、元々、アブゾル神なんて信じてもいないしね」


 姫様の目は真剣そのものですね。

 ……そうですね。


「分かりました。全てを終わらせた時には、私は姫様の剣になります。だから……。私の事はレティと呼んでください」

「ふふ。分かったわ」


 エレンのお墓にまた来る事を約束してから、姫様の部屋へと戻ります。

 さて、これからどうしましょうか。

 ウジ虫はどこにいるかは分かりませんし……教会でも潰しましょうか。

 私が悩んでいると姫様が次の標的を提案してくれます。

 

「それなら、いっその事、レティが魔王を倒したらどう?」


 私が魔王をですか?

 確かに魔王も私の復讐の対象の一人でしたが……。


「しかし、私は勇者ではありませんよ」

「レティ、私が思う勇者はね、魔王を倒すために呼ばれた召喚者ではないと思うのよ」

「……」

「今のこの世界には勇者はいないわ。だって、現にタロウは何も成していないもの」


 絵本や小説でもそうです。魔王を倒したから勇者になるのであって、今のウジ虫はただの色ボケウジ虫です。

 

「わかりました。元々、勇者をなぶり殺してから魔王も殺す予定でした。順番が入れ替わったとしても問題ないでしょう」


 私が次の標的を決めた丁度その時、レッグさんが慌てて姫様の部屋に入ってきました。

 駄目ですよ。将来姫様の旦那様・・・になるかもしれませんが、レディーの部屋にノックもなしで入ってくるのは減点です。


「ネリー姫!! 大変だ!! 魔族の軍勢が攻めて来た!!」

「なんですって!! 兵士達の準備は!?」

「今、急ぎでやっている!! だが、間に合うかは微妙だ!!」


 魔族の軍勢ですか。数はどのくらいなんでしょうかね?


「レティ。私達が魔族を押さえているうちに王都を出て。そして、まお「それはできませんねぇ」う……え?」


 私は立ち上がり部屋を出ようとします。


「ここは、私の帰る場所なんですよ。レッグさん。魔族の数は?」

「ざっと見た感じ五百人くらいだ……。レティシアちゃん……どうするつもりだ?」


 五百匹くらいですか……。

 久しぶりに本気・・が出せそうです。


「行ってきます」

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