8-3
弘蔵は店主の指の先に目を移すと、そこには、ちから強く固められた拳のままの前腕が並べられてあった。
弘蔵は手にとってしげしげと眺めた。それほどわるい品物とは思えなかった。
「これ、いくら?」
「三年といいたいところだけど、あんただったら二年にするけど、どうだい?」
店主は揉み手をしながら弘蔵の顔を覗き込んだ。
「二年だね?」
「ああ、二年だ。間違いのない品物だ。こんどそんなことがあったらいつでもいってきたらいい。わしも長いことここで店を開いている。変な評判が立ったら店を閉めなきゃならんからね」
「わかった。じゃあ、これを」
弘蔵は黙って右手の小指を店主の前に差し出した。
弘蔵は軽く頭を下げると、紙袋に入れられた左腕を抱えるようにして、小屋に向かった。
きょうはどういうわけか、両方の小屋の前に行列はなく、ふたり待っているだけだった。
弘蔵の番が廻って来るまでにそれほど時間はかからなかった。
小屋の扉を開いて中に入ると、白衣を着た年輩の男と、助手の中年女性が同時に弘蔵の顔を見た。
「あんたは、この間私が向こうの小屋にいるときに、仕事中に切り落としたといって、手首をくっつけに来たんじゃなかったかな」
白衣の男は記憶を探るようにして訊いた。
「そうです」
そう言われて弘蔵も気がついた。よく見ると手首を修理してくれた男に間違いなかった。
「そのあんたが、きょうはまた何でこっちの小屋に?」
「ええ、どうも腕の調子が思わしくないので、いっそのこと別のに取り替えようと思って……」
「そうか。それで、代わりの腕を持って来たのかな」
「はい、この紙袋の中に……」
弘蔵は紙袋のまま男の目の前に差し出した。
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