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そんな社長のまどろっこしい姿を見て、こちらから切り出そうかとも思ったが、紀子の顔が脳裡に浮かんできたので、弘蔵は我慢して言葉を咽喉の奥に呑み込んだ。
「昨日の夜紀子から電話が入って、今回の見合いの話はなかったことにして欲しいと……。
いや、けして弘さんが嫌だとかそういう理由じゃなくて、この間も話したけれど、
あれも一度失敗をしているので、いざ結婚となるとやはり神経質になると思うんだ。
そこんとこをわかってやってくれないだろうか」
江端は申し訳なさそうな顔で言った。
「いや、私は結婚したことも離婚したこともないですけど、紀子さんの気持はよくわかります。
こういったことは片方だけがその気になっても相手のあることですし、自分の気持に嘘をついて一緒になったとしても、おそらく長つづきはしないと思います」
「確かに弘さんの言う通りだ。けど、健全な心身を持つ者がひとりでいるというのは不自然じゃないか。
そう思って、勝手ではあったけど話をすすめさせてもらったんだ。
でもこういう結果になって、弘さんの心を傷つける結果になってしまったが、けして悪気があってしたことじゃないんで、どうか勘弁して欲しい」
江端はテーブルに額をつけるくらいにした。
「そんな言い方しないで下さい、社長……」
弘蔵はそのあとつづけて何かを言いたそうだった。
そのとき、三種類ほど酒のツマミの載った長細い皿と、刺し身の盛り合わせが目の前に置かれた。
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