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「弘さん、このビールが済んだら、久しぶりに日本酒といかないか? この店は結構いろんな種類の酒が置いてあるみたいだからさ」

「いいですね。最近は焼酎ばかりで、とんとご無沙汰してますよ。日本酒というのは味があっていいんですが、我々労働者にとっては酒税のせいでそういった値段がついているのか、あまりたくさんは飲めません。やはりどうしても安くて早く酔える酒に手が伸びます」

 余程日本酒が飲みたかったのか、きょうという夜がそうさせたのか、弘蔵はこれまでになく饒舌になっている。

 ビールがなくなり、土佐の冷酒と同時に串物を二人前注文する。

 ふたりの前に搬ばれた銚子は備前焼の首の細いもので、猪口もお揃いの小振りのものだった。

 顔を合わせて失笑した。これでは注ぐのに忙しくて話どころではなくなってしまう。そこで店主に頼んでぐい飲みに替えてもらった。

 こうしてみると、江端と弘蔵は結構気が合うところがあった。

 江端には、年格好からして、弘蔵だったら工場の責任者として任せてもいいくらいの腹づもりはあった。

 そんな気持を抱えていた矢先に、この間の夜のことがあった。

 だがあの問題が解決するまでは弘蔵に聞かせるわけにはいかない。

 以来ずっと悩んだままの江端は、いまでも夢であって欲しいと希んでいる。

 カラン、カラン、カラン…… 

 音がするほうに目を遣ると、アベックが一組入って来た。

 やっと店らしくなってきた。

 二本目の冷酒は山形の地酒に替えた。

「社長、すいませんでした」

 弘蔵は唐突に頭を下げて言った。

「何だい、急に」

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