8-4

 白衣の男は、紙袋を覗き込むと、野菜でも取り出すように左の前腕を掴み出した。

「これでいいんだね?」

「はい」

「じゃあ、そこに横になって」

 白衣の男は顎で治療台を指した。

 弘蔵が服を脱いで治療台に躰を長めると、男は白いクリームのようなものを肱の周りに丁寧に塗りつけた。

 しばらくすると、次第に感覚が薄れ、まったく自分の躰の一部ではないような気になった。

 目の端にきらりと光る刃物のようなものが見えた。

 手術用のメスに違いない。

 しばらくして左の耳朶にごろりと鈍い音が伝わった。

 肱から下が切り離され、脇台かどこかに置いた音のようだった。

「はい、もういいよ」

 男は柔らかな口調で言い聞かせるようにした。

 弘蔵は右手で支えるようにして躰を起こした。

 恐る恐る左の腕を見る。

 そこには新しくてちから強い腕が、拳を握ったままで自分の躰の一部になっていた。

 そっと触れてみる。それはまったく自分のものではないように思えた。

「しばらくして感覚が戻るようになったら、その掌も開くようになるから心配はいらない」

「そうですか。ありがとうございました」

 弘蔵は丁寧に頭を下げて小屋を出た。少し眩暈がした。

 弘蔵は市を出ると、自分の部屋に帰るべく道を急いだ。

 秋風が物悲しさをつれて胸を叩く。

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