3-6
江端は、納得したようなしないような複雑な気持のまま店を離れた。
筋の突き当たりまで来ると、これまでの店とは違って、小屋のようなものがふたつ建てられてあった。
引きも切らずにひとが出入りしている。どちらの小屋にも順番を待つ長い列ができていた。
どうやら、ひとつはここで手に入れた部分品を取り付けてもらう小屋のようで、もうひとつは以前購入した部分品を付け直してもらう小屋のようだった。
小屋から出てくるひとの顔はどれも安心しきったような表情をしていた。
江端はその小屋の前を横目で見ながら通り過ぎた。幸いにも並んでいる人の中に弘蔵の姿はなかった。
ひと廻りして市場を出ると、神社の裏を通って正面に廻った。
蝉の鳴き声以外にはただ仄暗い闇があるだけで、これまでいた市とはまるで別の世界としか思えなかった。
江端は来た道を急ぐように家に足を向ける。どれだけの時間市にいたのか見当がつかない。
腕時計をしていなかったので、時間の経過を測りようがなかった。
気がつくと、これまで耳に痛いほどだった蝉の喧騒が消えてなくなっていた。
すべてが夢を見ているようだった――。
相変わらず空は蒼い色を湛えている。
それを見たとき、今夜が神秘的で特別な夜のように思えた。
江端は家への帰りを急いだ。
もうとっくに史江とヒロシは戻っているに違いない。
どういって話をしたらいいのだろう……。
別にやましいことをしてきたわけではないのだが、自分が目の当たりにした光景にどことなく引け目を感じた。
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