3-5

 どこも不具合な部分のない江端は、店先に置かれた小さな箱の中に無造作に入れられた眼球のキーホルダーに目が行った。

 手にとって見る。

「それは、お守りだよ。いざというときに身を守ってくれる。値段はだ」

 店主はぶっきらぼうに言った。

「一時間?」

「ああ、たったの一時間だよ。どうだいひとつ」

「本当に守ってくれるのか?」

「じゃあなにかい、お客さん。神社にお参りに行ったとき、社務所でお守りを買って、同じようなこと訊くかい?」

「いや、それは……」

「そうだろ? こんなもんは気の持ちようだからね」 

 そう言われて江端は気持が傾いた。

 嘘か本当かわからないが、自分の身を守ってくれるのなら、寿命が一時間短くなったところで大勢に影響がない。それよりも自分が無事であることのほうが大切だと思った。

「じゃあ、これを」

 江端は、店主の目の前にキーホルダーをぶらつかせて言った。

「はいよ」

 店主は無造作に紙袋に入れると、そっと手渡した。

「勘定はどうしたら……?」

「利き手を出して」 

 言われるまま江端はおもむろに右手を出した。店主は小指を握るようにすると、指を引き抜くような動作をした。

 それは何かのおまじないのようだった。

「はいよ」

 それだけで支払いは終わった。

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