3-7

 玄関のガラス戸をそっと開けて中に入り、土間を見ると、史江とヒロシの履物がなかった。まだ帰ってないのだ。

 玄関先で女房を大きな声で呼んだ。返事がない。もう一度呼んだ。やはり同じだった。

 江端は先に戻ったことでこれまでの後ろめたい気持が消え去り、逆に勝ち誇ったように気分が昂揚してきた。

 台所に行き、冷蔵庫を開ける。

 ゴクッ、ゴクッ、ググッ……

 冷えた麦茶を取り出して何度も咽喉を鳴らす。緊張と暑さでたまらなく咽喉が渇いていた。

 ほっとひと息ついて居間に戻って柱時計に目を遣ると、時計の針は「九時五十分」を指していた。

 家を出たときから十五分しか経っていない。信じられなかった。

 自分の目を疑ってもう一度見直す。

 カッ、カッ、カッ……

 秒針はちゃんと動いている。念のために、外しておいた腕時計を覗いた。やはり間違いなかった。頭の中が混乱に見舞われ、おかしくなりそうになった。

 江端はその場に坐り込み、これまでを整理するように目を瞑った。

 とても十五分の間に起きた事柄とは思えなかった。

 どう考えても、辻つまも計算も成り立っていない。まったく承服できなかった。

 ポケットからキーホルダーの入った紙袋を取り出し、眼球を掌に載せてみる。

 改めてつぶさに見てみると、白目の部分に細く血管が走り、まさに人の目玉という奇妙なグッズだった。

 あの場所では別に違和感のなかった代物だが、家に持ち帰るとやはりあまりにもリアルで、冗談では済まされないものがあった。

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