1-4

 生ビールが搬ばれると、ジョッキを合わせて一日の仕事が終わったことを感じあった。

 申し合わせたように大きな息を吐くと、ガラスの器に盛られた枝豆に手を伸ばす。

「弘さん、話っていうのは、他でもないんだが……余計なことかもしれないが、所帯を持とうと思う人はいないのかい」

 江端は真摯な顔付きになって、真面目な話であることを見せた。

「いえ、いません。私のような者について来てくれるような、そんな奇特な女の人はいませんよ」

 弘蔵はビールジョッキに目を落とした。

「本当なのかい? それ、まともに受け止めていいんだね?」

 江端は身を乗り出すようにして確かめた。

「ええ、本当です」

「そうか、よかった」

 江端は安心したかのように、貯めていた息を躰ごと吐き出した。

「それがどうかしたんですか?」

「いやね、うちの家内の妹で、弘さんにつり合う年格好のがいるんだが、どうだろう?」

 江端は笑いながら弘蔵の顔を覗き込む。

「はあ、いえ、そのう……」

弘蔵は突然のことに言葉が澱んだ。

「どうしたんだい? 身を固めるつもりはないのかい? ちょっと待って、その返事を聞く前にビールを頼もう」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る