1-5

 新しいビールがくるまでふたりは黙ったままだった。

 所在のない弘蔵は枝豆の鞘をいつまでも噛んでいる。

「……どうなんだい? さっきのつづきなんだけどさ」

「はい。社長にそう言っていただけるのは、本当にありがたいと思うんですが、正直なところ、まだその気がないんです」

「まだその気がない? 弘さん、もういつ嫁さんもらってもおかしかない年齢じゃないか」

 江端の顔がいままでとは違った。

「突然こんな話を持ち出した俺もわるいが、弘さんの人柄なら薦めてもいいと思ったんだ。

 身内のことだけに、やはり誰でもというわけにはいかないが、弘さんだったら安心できる。

どうだろう、会うだけ会ってはくれないか」

「はあ、まあ……」

 弘蔵は、言葉を濁し、居場所がなさそうなくらいに躰を小さくして言った。

「そうかい、会ってくれるかい?  まあ、気に入らなかったら遠慮なく断わってくれていいから。いくら義妹といっても無理には薦めない。

弘さんがその気もないのに押し付けるような真似は俺も嫌だ」

「そういうことなら……」

 弘蔵は、社長の顔を立てて渋々承諾した。

「よし、そうと決まったら、あらためて乾杯をしよう」

 江端はビールの追加をすると、腹に堪えるようなツマミを二、三品遠慮する弘蔵に取ってやった。

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