7-3

 ここはお祭りの夜店と違って、滅多に子供の姿はあまり見かけることがないが、それでもひとの出足は結構なものだった。

 両側の店を交互に見ながら歩いていたとき、何気なく目を遣ったその先に弘蔵の姿があった。

 一瞬目を疑った。

 江端は顔が合わないようにくるりと背中を向ける。間を置いて、そっと首を廻しながら目の端で弘蔵を追った。

 弘蔵の後ろ姿から徐々に市の灯りが削り取られていった。


 江端は、突然自分が素になったような気がした。

〈 自分がなぜここにあるのか不可解極まりない。ある時間になって何かに誘われるように足を向けた。

それも自然のままに……。

 自分で公園があることを確かめつつも、二、三日あとにふたたびその場所を訪れてみた。」そのときは、ちゃんと公園であった。

 しかし、こうやって足を向けてみると、夢であるかもしれないが、れっきとした市としてひとが集まり、市としての空間が存在している。

 そんな中に縁もゆかりもない自分がどうして紛れ込んでいるのか理解できなかった。

  ただ、弘蔵のあとをついて来て、

たまたま目についたキーホルダーを買っただけなのに……〉


 いまの江端は、縁日の延長としか思っていない。

 しかしそれもあとの祭りで、この市に足を踏み入れたのが運の尽きだった。

江端はこの「市」の怖さをまだ実感していない。

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