7-4
このあと自分がどんな目に遭うのかまったく気付いていない。
まあそのほうが倖せといえばその通りかもしれない。
――家に戻って柱時計を見ると、やはり十五分しか経過してなかった。
「パパ、どこ行ってたの?」
史江は面白くなさそうな顔をして訊いた。
「なあに、ちょっと散歩に出ただけだ」
「パパが出てったあとに実家の義母さんから電話が入って、今度の土曜日に、義父さんの七回忌の打合せに長野に来て欲しいって」
史江は江端が長男だけに実家から冠婚葬祭の話があると、すぐと懐勘定をする。
出費を快く思わない史江は、なるたけその話に触れないようにした。
「そうか――」
江端は顔をしかめて口ごもった。
「どうかしたの? 都合がわるければそういって電話すればいいじゃない」
「今度の土曜は納品があるんだ。すんなりいけばどうってことないけれど、そういうときに限ってトラブルが起きたりするんだ。それを心配してるだけのことさ」
仕事に関してこれ以上細かな話を史江に聞かせても噛み合わないことを察知した江端は、空気が澱むのを避けて話をそこまでにした。
金曜日の午後、三時の休憩が済んですぐのことだった。
ひとりの若い工員が、大きな声で旋盤のトラブルを報告した。
ことの大小に関係なく、工場内にいる人間のすべての動きが凍りついた。
工程通りに仕事が捗れば、わずかな残業をするだけで受注したすべてを完成させることができた。
ところが、好事魔多しとはよく言ったもので、江端の危惧が的中した。
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