7-5
手のすいた者が代わる代わる旋盤の制御盤を覗き見たが、それほど簡単に修理個所が見つかるはずはなかった。
何とかメーカーに連絡をとり、やっとエンジニアが姿を見せたのは八時過ぎのことだった。――
修理は一時間を要した。
幸いにも部品交換まではいかなかったので、それだけの時間で済んだ。
それまでの江端社長は、万が一のことを想定してほうぼうに電話をかけていた。
ところが、工作機械が無事に動くようになると、今度はお礼の電話をかけまくらなければならなくなった。
しかし、兎にも角にも、工場が稼動したことによって刺し込むような胃痛から開放されたことに安堵した。
結局すべての仕事が完了したのは、明け方の四時を大きく廻っていた。
事務員の女性を除いた社員のすべてが残っていた。
何とか仕事を終わらせると、疲れた顔を隠すこともなく、肩を落とすようにして家路を急いだ。
次の朝――。
土曜日ということでみんなを休みにはしたが、江端にはまだひと仕事残っていた。
製品を九時に届ける約束をしていたのだ。
これだけはどうしても自分がしなければならないと心に決めていたので、ほかの人間に頼むことはさらさら頭の中になかった。
家に戻った江端は、仕事を完遂させた充実感と虚脱感が同時に押し寄せてきて、しばらく茫然となりながらも、疲れを取るべく熱い風呂に身を沈めた。
風呂から出て仮眠を取ろうとして横になったが、仕事先のことや実家に行かなければならないことが脳裡に浮かび上がってきて、思うように憩むことができなかった。
「納品をして、その足で長野に向かうから、もし電話があったらそう伝えてくれ」
心配顔の史江に余裕を見せて言った。
「パパ、寝てないようだけど大丈夫?」
「ああ、心配しなくていい」
江端は、家族用に購入したワゴン車に製品を忙しなく積みながら史江に言い聞かせ、ハンドルを握ると、ゆっくりと車を動かした。
これが史江との最後だとは予想だにもしなかった。
それは当然ひとり息子のヒロシにも言えることだった。
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