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 真夏の蒸し暑い日――。

 ジ、ジジジジィ……

 どこから聞こえるのか油蝉の鳴き声が工場の中に反響している。

 余計に暑さを覚えさせる音声おんじょうだった。

 油の匂いが充満する作業場の奥にまで西日が伸びている。

 いたるところに陰と陽のコントラストがいくつもの幾何学模様を拵えていた。

 作業所内に響き渡る金属音は、終業時間が近付いているせいで慌ただしかった。

 やがて仕事を終えた工員たちは流しで汗を洗い流し、私服に着替えると、思い思いの場所に向かって足早に姿を消した


 工場の前には川が流れている。

 川幅七メートルもないくらいの小さな川だったが、川底までは四メートルはあった。

 すべてがコンクリートで押さえられているので、川というより水路と言ったほうが似合っている。

 少しでも無機質を隠そうとするのか、緑濃い雑草が川縁を覆っていた。

 川面を渡ってくる風がコンクリートの放熱する温度を含んで生ぬるい。

 紛れもなくそこに夏があった――。


 弘蔵は、仕事が済むとこうしてゆっくりと流れる川の水を眺めるのが日課で、川縁に佇み汗の滲んだ灰色の作業帽を脱ぐと、首に巻いたタオルで押さえつけるように額の汗を拭った。

 背伸びをした瞬間、背骨の軋む音と同時に、まぶしさで目が眩みそうになった。

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