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「ところで弘さん、俺は弘さんのことをあまり詳しく訊いたことがないけど、弘さんほどの男だったら若いとき随分と女を泣かせたんだろうね」

 江端は見合いの件があるので、硬い話よりもこっちのほうを択んだ。

「そんなことはないです」

 弘蔵は真面目に答えたあとなぜか下を向いた。

「本当かい? 俺はそんなことないと思うけどな」

 江端は含み笑いをしながらビールを飲む。

「そういう社長はどうなんですか?」

 弘蔵は江端に鉾先を変えてきた。

「俺か? 俺はモテたというより、そう自分で勝手に思っていたと言ったほうが適切かもしれんな。

まああの頃は景気がよかったから、それほど高級なクラブには行けなかったが、自分の懐に合った店にはよく通っていた」

「そうなんですか」

「ああ、あとから考えると、ホステスというやつは、俺よりも俺の財布に惚れていたんだな。男っていう生き物はまったくしょうがない動物だよ。

世の中の女は全部自分に目を向けていると思い込んでしまう。弘さんはまったくそういった経験はないのかい?」

 好奇心旺盛な江端は、まず自分の話をしておいから、じんわりと弘蔵の過去を聞き出そうという魂胆だった。

「まあ、ないことはないんですが、他人様に話せるようなそんな話は持ち合わせません」

 弘蔵は頭を掻きながら照れ臭そうにした。

「ぜひ聞いてみたいな、弘さんのその話。いや、心配しなくても誰にもいやあしないからさ、ね?」もうひと押しだと思った。

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