4-3
「いえ、別に予定というものはないんですが、急だったんで……」
「じゃあ、いいんだね?」
「はあ。ところで社長、どんな格好をしてったらいいんでしょう?」
弘蔵は真面目な顔で訊ねた。弘蔵らしい質問だった。
「なあに、普段の格好でいいんだよ。素のままの弘さんを見せればいいんだ。
そのほうが逆にいい印象を与えることができるし、先のことを考えたら背伸びはしないほうがいい。
それと、いくら俺の義妹だといっても遠慮はいらない。しつこいようだけど、嫌ならはっきり断わってくれていいんだ」
江端はビールジョッキに手をかけた。
「社長にそういって頂けると気が楽になります」
「まあ弘さん、そんなに堅っ苦しく考えないほうがいいよ。
真面目だね弘さんは……どっちかというとそこが弘さんのいいところだけどね。
さあ、せっかくのビールがぬるくなっちゃうから飲みながら話そうや」
「はい」
弘蔵は大事そうに両手でジョッキを抱え、おそるおそるのようにして口をつけた。
「社長、きょうはカツオのいいのが入ってますよ」
いつの間にか背中に来ていたかずさ屋のカミさんが、屈託のない顔で肩越しに言った。
「おおそうか、じゃあそいつを」
江端は嬉しそうな顔で振り向いた。
「弘さん、あんたも遠慮しないで好きなもん頼んだらいいよ」
首を戻して江端は言った。
弘蔵は、品書きの書かれた短冊を読みながら食べたい物が決まったのか、
首を立てに二、三度振ってカミさんを呼んだ。
「マグロとイカの刺身をひとつと、鶏のから揚げを」
「はいよッ!」
カミさんは歳に似合わず威勢のいい声で注文を通した。
その声に江端も一瞬目を瞠った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます