4-3

「いえ、別に予定というものはないんですが、急だったんで……」

「じゃあ、いいんだね?」

「はあ。ところで社長、どんな格好をしてったらいいんでしょう?」

 弘蔵は真面目な顔で訊ねた。弘蔵らしい質問だった。

「なあに、普段の格好でいいんだよ。素のままの弘さんを見せればいいんだ。

そのほうが逆にいい印象を与えることができるし、先のことを考えたら背伸びはしないほうがいい。

それと、いくら俺の義妹だといっても遠慮はいらない。しつこいようだけど、嫌ならはっきり断わってくれていいんだ」

 江端はビールジョッキに手をかけた。

「社長にそういって頂けると気が楽になります」

「まあ弘さん、そんなに堅っ苦しく考えないほうがいいよ。

真面目だね弘さんは……どっちかというとそこが弘さんのいいところだけどね。

さあ、せっかくのビールがぬるくなっちゃうから飲みながら話そうや」

「はい」

 弘蔵は大事そうに両手でジョッキを抱え、おそるおそるのようにして口をつけた。

「社長、きょうはカツオのいいのが入ってますよ」

いつの間にか背中に来ていたかずさ屋のカミさんが、屈託のない顔で肩越しに言った。

「おおそうか、じゃあそいつを」

 江端は嬉しそうな顔で振り向いた。

「弘さん、あんたも遠慮しないで好きなもん頼んだらいいよ」

 首を戻して江端は言った。

 弘蔵は、品書きの書かれた短冊を読みながら食べたい物が決まったのか、

首を立てに二、三度振ってカミさんを呼んだ。

「マグロとイカの刺身をひとつと、鶏のから揚げを」

「はいよッ!」

 カミさんは歳に似合わず威勢のいい声で注文を通した。

その声に江端も一瞬目を瞠った。

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