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普段は家に戻って昼食を食べ、軽く昼寝をして午後の仕事に就くのが決まりだった。
そんな社長が何を思ったか突然姿を見せたものだから一同は面喰って、急に話のトーンが低くなった。
「おいおい、俺が来たからって何も遠慮することはないじゃないか。俺も話の仲間に入れてくれよ」
江端は笑いながら冗談めかして言った。
江端がわざわざここに来たには理由があった。弘蔵の左手を確認するためだった。
昼飯のときまでは軍手をしてないだろうと考えたのだ。
顔は笑いながらも目は弘蔵の左手に奔らせる。ところが、意外にも弘蔵は平然として、隠そうともせずに両の掌をテーブルの上に出していた。だが見たところ別に変わったところはなかった。
江端は、工員の休憩時間を邪魔しないように、自分の目的が済むとそそくさとデスクに向かった。
思い違いだったのだろうか――そうだとしても、昨夜あの市場に行ったことは間違いがない。
またしても頭の中の秩序が乱れた。
算盤や電卓を叩くようにはいかない物事の解明に苛立つことしきりだった。
江端はこれ以上追求するのをやめようと思った。
一週間ほどしたある夕方、江端社長は弘蔵をかずさ屋に誘った。
左手の件ではなく、弘蔵の見合いの日取りについて打合せがしたかった。
店にはいつもの連中が、判で捺したようにカウンターに掴まっていた
この日も江端は躊躇なくテーブル席を択んだ。
「弘さん、例の見合いの件だけど、今度の日曜に決めたけどいいよね?」
「えっ! 今度のですか?」
弘蔵は目を大きく開いて聞き直した。
「そうだよ、都合わるかったかい?」
顔を曇らせて心配顔になった。
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