六の話 跡地

 夕方近くになって、江端は早めに仕事が片づいたので、少し気分転換に歩いてみようと思った。

 頭の片隅には脱け出すことのないあの一件がおこりのように熱を見せる。

 当然のことながらあの神社のあった四辻に足を向けた。

 この間とは道順が違っているが、そんなことよりもいち早く現場に行って確かめたかった。

 はやる気持を押さえながら江端が神社のあった場所に行ってみると、意外なことに自分の思い浮かべていた神社らしきものがどこにも見当たらなかった。

 江端は怪訝な面持ちで何度も小首を捻った。

 神社があったと思われる場所は、広大な公園になっていた。

 ジャングル・ジム

 二連のシーソー

 円く縁石で仕切られた砂場、それと公衆トイレが目に跳び込んできた。

 確かにここに間違いないはずだが……。

 あのときは幾段もの階段を昇った記憶がある。しかしここから見る限りでは、まったく起伏のない平坦な敷地だった。

 浮かぬ顔のまま公園の中に足を向け、しばらく歩いていると、大きな樫の木の下に置かれたベンチに、犬を散歩させながらひと憩みしている老人が目に停まった。

この時間は夕飯前に散歩を済まそうとする愛犬家の姿が多く見られた。

 江端は、急ぎ足でベンチに近付き、さも散歩をしているかのように腰を降ろす。

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