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 事務所で電話をかけていた江端は、弘蔵の後ろ姿を見て不思議に思った。

これまでにこんなことはなかったからだ。

 それもそこまでで、新しい仕事の打合せがこじれてそれどころではなくなってしまい、電話が済んだときにはすっかり忘れていた。

江端が事務所で設計図を拡げていたとき、女房の史江ふみえが夕飯の支度ができたと呼びに来た。

 自宅は工場の裏に位置している。家の前を東に五十メートルほど行ったところが社宅だった。並びといってもいいくらいの位置関係にあった。

 いつもより早目の夕食に少し戸惑いながら事務所に鍵をかけ、シャッターの降りたのを確認してから工場をあとにした。


 江端は、家に戻ると一目散に風呂場に向かった。

 早く一日の汗を流してさっぱりとしたかった。

 普段は九歳になるひとり息子と一緒に入るのだが、きょうばかりは勝手が違った。

 女房とヒロシは、夕飯もそこそこに友達の近くの寺で盆踊りがあるということで、父親をひとり残して家を出た。

 ひとり残された江端はゆっくりと缶ビールを飲みながらプロ野球中継に熱中した。

 ところが、贔屓のチームが大差で負けていることもあってか、知らないうちに居眠りをしていた。

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