2-3

 ――

 気持のいい深みだった。

 座卓の上にはロング缶が四本転がっている。

 プゥーン……キィーン

 江端は、耳元で身震いををするような蚊の羽音を聞いて目を醒ました。

 点けっ放しのテレビに目を向けると、すでに野球中継は済んでいて、いまでは騒がしいだけの意味不明なバラエティ番組をやっている。

 柱時計は九時半過ぎを指していた。目をしばたたかせながら家の中を見廻す。家族はまだ盆踊りから戻って来てない。

 母親が一緒なので心配の必要はなかったが、それでも何となく気になった江端は、サンダルを引っ掛けて表に出た。

 行ったと思われる川のほうにぶらぶらと酔いざましがてら歩いた。

 川のほとりは昼間ほどではなかったが、ジィ、ジィと油蝉が闇を裂くように鳴いている。

 蝉の鳴き声の狭間を縫うようにして、微かに水の流れる音が聞こえる。

 川の匂いがした。

 見上げると闇を覆うように紺青の空が神秘さを湛えている。

 江端はそんな繊細な神経を持ち合わせていなかったが、吸い込まれそうな夜空をしみじみと見ながらしばらく何かを想った。

 目を細めるようにして遠くを見据える。だが、こちらに向かうような人影はまったくない。

 江端は諦めて家に戻ることにした。

 家の玄関のところまで来たとき、社宅の入り口辺りが急に明るくなった。

 人体を感知した防犯灯が灯ったのだ。

 目を凝らすと、ややあって怪しい人影が浮かび上がった。―――

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