6-3
改めて老人の話を反芻すると同時に、ついこの間の自分の体験を重ね合わせてみた。
思わず躰がざわつき、背筋に寒いものが奔るを覚えた。
江端は老人に軽く頭を下げ、早々に公園をあとにした。
この時間になっても一向に衰えを見せない西日は、斟酌なく針で射すように襲いかかった。
目が眩めくようだった。
工場に戻ったとき、丁度工員たちが片づけをしているところであった。
弘蔵はいつものように川縁に佇んで、背筋を伸ばしながら川面を見下ろしていた。
電柱や街路樹の影が長く伸びている。
相変わらず油蝉がけたたましく鳴き交わしている。
額の汗をタオルで拭った。またすぐと汗が吹き出てくる。
小さな鳥が夕日を跳ね返しながら水面を滑空して行った。
江端は黙って弘蔵の背中に近づくと、ポンとひとつ肩を叩いた。
「どうだい、弘さん、かずさ屋にでも行かないかい?」
「はあ」
弘蔵は、江端が誘う理由を薄々感じ取っていた。
この前の見合いの返事に違いない。
弘蔵は加えて言った。
「社長、かずさ屋もわるかないんですが、偶には駅前かどこか違ったとこにしませんか?」
話の内容はいわずとも知れているので、そんな話を誰が聞いているかわからない近所の居酒屋では話したくなかった。
「ああ、いいよ。そうしよう、そうしよう」
江端の言い方にははどこかおもねるようなところがあった。
三十分程して、ふたり揃ってS駅前に向かって歩き出した。
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