6-2

「結構広くていい公園ですね」

江端は気安く話しかけた。

 可愛がられているのだろう、柴犬が人懐っこく鼻先を掌に押し付けてくる。

 少しちからを込めて頭を撫でてやった。

 気持がいいのか飼い主が傍にいるので安心しているのかわからないが、二、三度撫でただけで目を細めて凝っとしていた。

「ここはちょっと前までは救急病院で、よく救急車がサイレンを鳴らして走って来おった。ところがどうしたわけか、急に閉院してしまった。

 詳しいことはよくわからんが、聞いたところによると、どうやら院長が急になくなって、あとを継ぐ人間がいなかったようで、残された奥さんが病院の土地を東京都に寄付をし、自分は郷里に引き上げたということだった」

「そうだったんですか」

「そんな病院の跡地ではあるが、いまではこうしてみんなが愉しそうに利用している。ありがたいことだね」

 老人は目元に皺をいく筋も寄せてしみじみと言った。

「この公園の広さからすると、病院は随分と大きかったようですね」

 江端はもう少し引き摺り出そうと思った。

「そりゃあ見ての通り、これだけの敷地に四階建ての建物だったんだから推して知るべしだ。わたしも何度か世話になったことがある。もっぱら外科が専門のようだったが、それ以外にも内科や小児科の窓口があったこともあって、結構このあたりの者にとっては便利な病院だったな」

 懐かしさが込み上げてきたのか、老人は淡々と話しながら何度も辺りを見廻すようにした。

 江端はここに来たとき、あまりにもこの間の夜とは違う有様に、とてもすぐとは同じ場所であるとは思えなかった。しかし、老人の話を聞いているうちに、まんざら絵空事ではないような気がしてきた。

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