七の話 トラブル
一ヶ月が過ぎた――。
いつの間にか夏の風物詩でもある蝉の声も消え、朝晩の気温も肌で感じるほど落ち着いた。
夜になって窓を開け放ったままでいると、ついこの前までの暑さが嘘と思えるくらいのひんやりとした風が知らぬ顔のまま通り過ぎてゆく。
仕事が済んで家に戻った江端は、軽く晩酌を済ませ、史江に急かされるように晩飯を食べると、テレビを観ながらうたた寝をはじめた。
今頃になって夏の疲れが出たのか、このところの江端はそれが多かった。
一時間ほど眠った江端は、何を思ったかふいに目を醒まし、ちょっと出かけてくるからと史江に伝えると、玄関のガラス戸をそっと閉めて通りに出た。
いま江端はあるところに向かって黙々と足を搬んでいる。
人市場だった。
何かに呼び寄せられるかのように向かっている。
江端は、自分の意志とはまったく違う次元で躰が反応していることに気がついていなかった。
公園のところまで来ると、あるべき遊具やベンチが見当たらず、江端の目の前には鬱蒼とした
やはり間違いなくそれはあった。
気持の中ではすでに彼らの仲間という意識が働いているのか、階段に足をかけるのにもう躊躇することはなかった。
石段を昇りきると、本殿の前に行き、そっと手を合わせた。
境内を映す常夜灯にはもうあのときほどの情景はない。
本殿の左から廻って裏手に向かった。
市の入り口まで来たとき、夜店が放つ灯りのひとつひとつがなぜか懐かしいものに思えてならなかった。
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