第39話 噂
「本気?」
そう、疑問の目を俺に向けながら問いかけてきたのは一年Bクラスの担任、サラ先生だ。
サラ先生が片手で――少し折りながら――俺が渡した闘技大会の参加書を持ちながら言う。
「本気ですよ」
俺は当たり前だと言わんばかりに言うと、疑問の目が心配そうな目に変わる。
面白いくらい予想していた反応と同じ反応だ。
「アッシュ。ちゃんと自分の実力を見て。確かにあなたは、気力に関しては学年では上位だけど、一年生よ?」
「えぇ、大丈夫ですよ、知ってます。ですが、自分の実力で何処まで行けるか知りたいんです」
俺は頷き、サラ先生の目を見る。
そんな見つめ合いが続き、サラ先生がため息をして、自分を納得させるように数回小さく頷く。
「……分かったわ。参加を認めます。ただし、無理はしないように」
&&
俺がカレーが乗ったご飯をすくう度に食器とスプーンが接触し特有の音が鳴る。
彼女がオムライスをスプーンですくう度に特有の音が鳴る。
そんな小さな音が目立つくらいに俺たち二人の間には会話はない。会話がない理由はお互い違い、そんな空間にいる時の感情もお互いに違うだろう。
今まで何回もこの空間を感じてきたが彼女から会話を始めたことは一度もない。
「そういえば、前のテスト順位が上がったよ、四位になった。スズのお陰だ。」
俺はいつも通り俺から会話を切り出す。彼女――スズが機械の様に手を止め、視線を俺に向ける。
「いえ、アッシュの実力ですよ。私は何も。」
スズはいつもの様に否定する。
実際事実だ。俺がテストの順位がどんどん良くなっているのは、スズが俺の勉強を見てくれるからだ。
だが、スズはこの事実を頑に否定する。
「闘技大会に参加するって本当ですか?」
俺は動揺から口に到達しそうな、カレーライスが乗ったスプーンが止まる。だが直ぐに動かして口に運び、咀嚼する。飲み込み、真っ先に思い浮かんだ疑問を言う。
「何で知ってるんだ?」
「皆んな噂してますよ」
どこから流れたんだ。確かにプリントを提出した時周りには先生や生徒が何人かいたが、まさかこんなに早く広がるのか思い知らされた。
「で、本当なんですか?」
「……本当だよ」
俺は一回頷き言う。スズは珍しく表情が少し動く。本当に珍しい事だ。だが俺の洞察力では、その表情がどんな感情を表しているか分からなかった。
「……危険ですよ」
「分かってる」
「本当に危ないですよ」
「大丈夫じゃ無いけど、大丈夫だ」
「別に一年生で参加しなくても……三年生で参加すればいいじゃないですか」
まぁその意見は当然だ。先生がその事を言わなかった事が少し不可解だが、それは別にいいだろう。そう余りにも当然で、真っ当な意見だがそれでも――
「一年生だから意味があるんだよ」
言葉足らずな答えだが、スズは一度机に置いてある、ケチャップが少し付いた皿見る。そして視線を上げ、納得した様な表情を浮かべていた事は俺にも分かった。
「……なるほど、分かりました。ですが無理は禁物ですよ」
「あぁ、分かっているよ」
皆んな同じ事を言うんだな。
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