第40話 行動の決意

 嘘だろ。


 俺は肘を机に付き、頭を抱える。目線は一枚のプリントの名前に向いており、それを確認する度に重いため息が出る。


 まさかだった、本当にまさかだ。

 確かに剣聖フウザ・デル・アスクリートが闘技大会に参加する事は知っていた。

 だが、学園がいくら平等を掲げていたとしても、何らかの処置をすると思っていた。


 そして闘技大会のトーナメント表が配布された。真っ先に俺の名前を確認すると、一緒に剣聖の名前も見えた。俺の近くに書いてあったからだ。

 落ち着いて見てみたら一回戦の相手が剣聖だった。


 くそったれ。


 俺は引き出しにしまっているノートを取り出す。このノートは俺が危険人物だと判断した人物の詳しい情報を纏めてある物だ。


 ページをめくっていき剣聖の名が見えると、そこでめくるのを止める。


 びっしりと情報が記されているが、正直どうでもいい情報が大半を占めている。


 剣聖フウザ・デル・アスクリート。

 アスクリート家の長男で、剣神の加護を持っている。

 それは初代と同じ加護だ。つまり初代と同じ能力で能力は、人間離れした洞察力とその他諸々だ。


 歴代剣聖で二番目の天才と呼ばれており、フウザはその事にコンプレックスを持っている。その事から、プライドが高いのが分かる。


 噂では才能は初代よりかは劣るが、他の剣聖よりかはあるらしい。つまり二番目だ。


 だが実力は歴代剣聖の中で一番下だと予想する。理由は、フウザは剣聖になって日が浅い。まだまだ成長途中だ。


 そして何より問題なのは、フウザの実力を詳しく知らないという事だ。


 フウザは剣術の修行もするが、本気を出してない。俺が見てきた中だと、全て流す様な剣技だった。

 つまり、その何が問題かというと一般的なレベルや少し上の奴なら、調整してギリギリで勝ったり、ギリギリで負けたり出来るが、フウザは詳しく実力が分からない。もし、全力を防ぎきってしまったら正直やばい。俺がフウザを過小評価してたり、過大評価していると判断を見誤ってしまう可能性がある。


 いや、落ち着け。


 俺の指が机を叩く音が、少し早く大きくなっていた事に気付いた。


 やる事は変わらない。相手が剣聖なら勝つのは不味い。

 相手の全力を引き出してその全力を数回受け止めるのが丁度いいだろう。

 観客の反応を伺いながら行動するのが最善だ。






 &&



 教会のステンドグラスから月明かりが差し込む。だが、それだけの明かりでは内部を明るく照らすのは無理でとても薄暗い。今では教会の神聖な雰囲気も、薄暗い中では不気味にも思える。


 そんな中、一人の信者が女神の像に向かって跪き祈りを捧げていた。


 その様子は、瞳を優しく閉じ真剣な顔持ちで祈りを捧げていた。その様子は誰もが認める忠実なる神の僕の表情だった。


 五分か、十分か、三十分か、どれくらい時間が経過したか分からないが、時間が過ぎ去っているのは確かだ。


「神よ……神が我らに試練を与えんのならば、私が忠実なる神の僕として試練を与えます。私に重大なる使命を与えてくれた事を心より感謝致します」


 静寂な空間では、呟きとも言える言葉はよく響き、ハッキリと聞こえた。だが再び静寂が訪れ空間を支配する。

 信者が何を考えているかは読み取れない。その呟きの意図も分からない。


「……神よ」


 もう一度神に悲願する様に呟く。


 そして、聖女の顔には不気味な程深い笑みが浮かんでいた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る