第23話 常人か狂人か
俺は寮の自分の部屋に着く。
これから日課の情報収集だ。何か起きた時に臨機応変に対応するために学園のことを誰よりも詳しく知らないといけない。学園の生徒には悪いが必要な犠牲だと割り切っている。
今日は全体的ではなく一人の行動を見張ろうと思っている。一人とはルーシュ・ダ・カトリックのことだ。何故なら、今ルーシュが一番の問題だからだ。このままだと平和な学園生活は送れない。
俺は初級魔法ステルスを使う。最初は見破られるのを警戒していたが何回も情報収集を行う内に見破られないと悟り、警戒レベルを下げている。俺の初級魔法は精度が良くその事も自負しているが所詮は初級魔法だ。俺と同等の精度を持つ上級の探知魔法を使われたら簡単に見つかる。
俺は窓から外に出てルーシュの部屋まで向かう。
その際沢山の女生徒とすれ違い気まずさを覚える。
ルーシュの部屋の前まで来て、ドアを開ける。ルーシュが驚きその油断の隙に部屋に侵入する。まぁルーシュからしたら急にドアが開いたのだから驚くだろう。だが経験がないルーシュは誰かが侵入したなど思い浮かばない。つまり、そんなに気にも留めないということだ。
そして俺は彼女を観察する。
&&
私は制服を楽になるくらいに着崩しベットに座る。
するとドアが勢いよく開かれる。私は驚きドアに近づき外の廊下を見るが誰も居ない。不思議に思いながらまぁいいかと思い元の位置に戻る。
少し休憩したら制服を正す。
少し緊張する。その理由はわかる。これから話に行く人は私が大好きな人だからだ。スキップしたい気持ちを抑えその人の元まで向かう。その人は大体この時間には教会に居るだろう。
少し早歩きで教会まで向かった。
教会に着きその人が出てくる。その人は、シスターの格好をしており私と同じ銀髪でとても美しい。その人は私を見るなり微笑み、こちらに向かってくる。その際、その人の一歩後ろに付いている女生徒達も一緒にこちらに向かってきた。
「貴方も午後の礼拝に来たのですか?ルーシュ。でしたら少し遅かったですね」
「いえ……違います」
少し声が震えただろうか。私はその人の目を見ようと努力するがどうしても見れない。
「でしたら何故ここに?」
そう聞かれ私は少し焦る。来る前に用意しといた前置きを忘れてしまったからだ。
私は後ろに居る彼女達に目を向け、その人はそれで察したのか散るように指示をする。
「えっと……エルザお姉様……私実は、恋人が出来たのです」
勇気を出し彼女の顔を見るといつもの笑みを崩していなかった。
「そうですか。おめでとうございます。ルーシュももうそんな年頃ですね」
あぁ、まただ。またこの人――お姉ちゃんは私を見ない。お姉ちゃんは周りの変化に関心がない。わざわざ恋人まで作ったのにお姉ちゃんは私を見ない。
「あ、ありがとうございます」
苛立ちと悲しみで泣きそうになり声が震える。
「そうですか」
お姉ちゃんは私を見ない。私が泣きそうになっているのにお姉ちゃんは心配などしないだろう。その理由は恐らく面倒くさいからだ。
少しの沈黙が生まれる。お姉ちゃんは耐えかねたのか、それともどうでもいいから早くこの場から立ち去りたかったからか、別れを告げる。
「では、ルーシュ」
お姉ちゃんは私に『また』とは言わない。これが最後の会話でも別にいいと思っているからだ。
私の考え過ぎだろうか。私が狂っていてお姉ちゃんが正常なのだろうか。出来ればそれであってほしい。
お姉ちゃんが私の横を通り過ぎる。遠くに散らばっていたお付きの人が、お姉ちゃんの元に一斉に集まる。
私はお姉ちゃんのことを見ることが出来なかった。
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