幕間
幕間 チャールズの日記
6月8日
戦士長の特別部隊に配属が決まった。と言っても、下っ端だ。だが給料は増えたから昇格したと言っていいだろう。これで貯金も増え安定した生活を嫁や息子と送れる。
そう思っていたけど――あぁ、クソ。思い出しただけで腹が立つ。
メルズが宣戦布告してきやがった。確かにアブソリュートとメルズは睨み合ってきた仲だが、宣戦布告は初めてだ。
俺が所属している特別部隊は前線に、しかも下っ端の俺は、更に前線に駆り出される。死ぬかもしれないが、国に忠誠を誓った身だ。逃げてはならない。
ただ、家族を残すことは心残りだ。
6月11日
準備やら移動やらで日記を書けなかった。
遂に明日だ。
かなりの確率で死ぬだろう。震えて、文字が汚くなっちまってる。
この日記は、俺が死んだら家族に渡す様になっている。
嫁から貰った、息子の写真が入りのペンダントと俺の写真をこのページに入れておくとする。
もしこれを見ているなら、すまなかった。
最近は忙しくて家に帰れなかった。お前達を残してしまって本当に申し訳ないと思っている。
アンナ。俺以外の男を早く見つけろ。一人で生活は厳しいぞ。大丈夫、お前なら大丈夫だ。マックスの事を頼んだ。
マックス。最後にお前を抱き上げたい。お前が大きくなって、本当の父親がいない事に何か感じるかもしれないが、大丈夫だ。俺はずっと見守っている。俺より長生きしてくれ。
本当に、愛している。
6月12日
分からない。何が起こったのか。分かるのは自分が生きているのと、今日、沢山の命が奪われた事だけだ。――
少し落ち着いた。今日起こった事を記そうと思う。
今日戦場があった。正直自分が戦っていた時の事は覚えていない。飛び交う魔法攻撃、雄叫びや叫び声、呻き声が至る所から聞こえた。
俺も叫びながら敵に突っ込んだ。
いつかは分からない。援軍が到着した。いやあれば援軍か?あれは、あれは英雄と名の兵器だ。
あいつが戦場にいつのまにか現れて、メルズの兵士や召喚天使を、いや思い出したくない。あれは戦場じゃない。一方的な虐殺だ。俺はいや、俺達は眺める事しか出来なかった。
俺は前線に居た為あいつの顔を見た。あれは悪魔に取り憑かれていた。
逃げ惑う敵を追いかけて殺し、鮮血を浴びても無表情だった。まるで、仮面を被っているような、そんな感じだった。
そんな顔でも印象があったのは目だ。
あれは何が一つ欠けていた。俺はそれを見て何かを感じた。俺と同じ事を感じた奴は何人いるのか分からない。
あれは、悲痛、そう悲痛な表情だった。死ぬ間際の人間の目と顔だ。神に助けを乞う様なそんな顔だった。それを見て、俺はアレに人間を見た。それは普通の青年の様な物を感じた。
それを見て俺はある考えが浮かんだ。
もし、アレの精神が普通の人間の精神なら?
そんな悲劇があっていいのか?
人間の、世界の闇を見た気分だ。力を持つ普通の青年に殺しを強要する。そんな世界に俺は生きていたのか?
俺は兵士を辞める事にする。もう戦えない、忠誠を誓えねぇ。あんな圧倒的な物を見ちまったらもう無理だ。
今まで敵兵を殺しても、これは国の為、世界の為だと言い訳にして戦っていたが、もう無理だ。戦争がどれだけ愚かで残酷な物だと知ってしまった。
俺は家族の元で細々と暮らす事にする。この日記もこれで最後だ。
逃げ帰る俺に、家族はなんて言うのか。喜んでくれると嬉しい。
最後にどんな言葉で締めようか迷うが、愚かな俺との別れならこれが最適だろう。
アブソリュートに繁栄を、人類に栄光を、悲劇の英雄に敬礼を――
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