第14話 悩み

 三回目の気力操作の授業が始まる。


 俺は気力操作は得意で魔術は苦手という立ち位置でやっていこうと思っている。理由は簡単。それは、気力操作の手加減は難しいからだ。気力量の調整は大丈夫なんだが、気力の流れをぎこちなくするのはかなり苦労する。息をする動作をぎこちなくしろと言っているような物だ。


 三回目なだけあってそんな難しい事はしない。先生が言った体の部位に気力を集めるといった基本的な動作の授業だ。周りが少しぎこちなく行なっているなか、俺はそつなくこなす。


 そんな中一人、悪戦苦闘している者がいる。先生がさっきからつきっきりで指導しているのに全く成長してない。その一人とは、スズのことだ。

 先生もさっきから困り顔でスズも今にも泣き出しそうな表情をしている。その光景を見かねて教えようとする気持ちをぐっと抑え気力操作に集中する。


 ちなみに、人の気力を見ることが出来るのは特別なことではない。このクラスの中からしたら特別なことだが、上級生や先生はその術を持っている。なら、約1500年先輩な俺はできて当然ということだ。


 先生もスズのばかりじゃ不満が起こるということで他の生徒の指導に入る。という建前であれは逃げたな。俺はそう思う。


 先生が他の生徒を見始めたということは俺も気合いを入れ、不自然じゃないくらい上手くこなす。

 先生と目があった。


「アッシュくんは気力操作上手いですね」


 注目された。嬉しいことだが緊張が走る。ここで急に上手くなったり下手になったり変化が生じたら危険だ。

 背筋から汗が流れるのを感じた。


「そうですか?」


「ええ、このクラスの中じゃ一番ですね」


 ふむ。この先生は一年生の気力の授業を任されている。つまり他のクラスの気力操作の実力を知っているということ。なので、学年一ではなくクラス一と言ったということは、この学年では今の俺より上手い人物がいるということだ。俺は望み通りの結果が出たということから笑みが出そうになるがそれを抑え、普通に爽やかに嬉しそうな顔でいう。


「本当ですか!ありがとうございます」

 周りを観察して、調整に次ぐ調整をしただけのことはあったな。先生が去ったのを見てそう思い、歪んだ笑みを浮かべてしまう。


 それにしても――

 俺は一人の女学生を見る。肩は震え下をうつむき、涙は出てないがその顔は号泣している顔だ。

 俺は考える。あのままではいつかパンクしてしまう。だが、俺が教えようか?と言ってもプライドが高い彼女を傷つけ、今より酷い状態になるかもしれない。


 どうするか……

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