第7話 最終試験

 試験最終日。


 俺は緊張からくる腹痛を我慢しながら、試験会場に向かっていた。周りに何人か同じ受験生が歩いている。その受験生達の顔は真剣そのものだ。当たり前だ。この試験は、人生を左右する物なのだから。


 円形状の天井が筒抜けな大きな建物の中に入る。内装は平たいタイルがありその一段上にはそれを囲むように席――表現するならば、観客席――があった。

 最初に比べたら少ないが、沢山の受験生が席に座っていた。俺は流される様に席に座り天空を眺める。


 この試験は一番自信があるが最終試験な事もあって一番緊張する。


 そんな事を思っていると下のタイルの所に先生らしき老人が入ってくる。


 その先生は前世で一般的だった魔術師のローブをしており見た感じだが、かなり年を取っているように見えた。

 後ろには一歩下がって同じローブ姿の若者が付き従っている。


「儂はこの学校で魔術師長をしておるローウェン・ヤクルトだ」


 老人が挨拶をすると同時に会場がざわめく。俺はその騒めきはなんなのかおおよその検討はついていた。原因はこの老人だ。自己紹介にもあった通り魔術師長をしていてその名は魔術に興味がある者ならば必ず耳にするビックネームだ。


 老人は長い白髭を撫でながら周りをギョロギョロと観察する。俺は念のために魔力と気力を最低限に抑える。


 騒めきがひと段落したと同時にローウェンが話し出す。


「まずはおめでとうと言っておこう。よくぞここまで残った」


 そう言うと肉がほとんどない手でゆっくりと拍手をしだす。遅れて後ろの従者達もゆっくりと拍手をする。

 拍手が止みローウェンが喋り出す。


「この試験は、初級魔法と気力の扱いを見る。決してズルはしないように」


 噂通りの試験内容で俺は安堵した。


「この試験はグループで分ける。昨日の合格通知に自分が何グループか書いてあっただろう。まさか、忘れたなどと言う愚者は居ないだろう?」


 ローウェンは睨みながら周りを見渡す。


 俺は大丈夫だ。ちゃんと合格を知った後隅々まで読んだからな。俺は第三グループ。


 ローウェンは周りを見てそんな者は居ないと悟ったのか満足気な顔をする。


「よし。では、第一グループ」


 すると何人か席を立ちゾロゾロと向かっていく。俺は限界まで息を吐き出し思いっきり新鮮な空気を取り込む。


 最終試験だ。





 第二グループの終盤に近づいてきた。


 何人かが試験をしてるのを見ていて気づいた事がある。


 それは1500年前と違って質が少し落ちている気がする。


 何故と疑問を持つが、すぐに答えが分かった。


 この時代は俺がいた頃と違って命がとてつもなく重い。


 攻略者を育てる、しかもこんなに大事にする学校なんて一つもなかった。


 だから昔は才能がない奴はすぐに死んで、才能がある奴は実戦で学び、どんどん強くなっていた。つまり昔は量より質だったが、今は質より量ということか。


 俺は二グループの終盤が近づいていることに気付き、席を立ち下まで降りる。すると丁度よく第三グループが呼ばれて俺は試験に向かった。


 自分でもこんなに緊張している事が不思議でならない。情けないな。


 自分の名前が呼ばれる。


 力加減を間違えるな、と自分に言い聞かせながら試験官の元まで歩いていく。


「私が言う魔法を使用していきなさい。放出系はあの土壁に当てなさい」


「わかりました」


「よし、始め!」


 俺は言われた初級魔法を機械のように一定の力を保ちながら放っていく。周りから何の反応もないということは失敗してないと思う。

 初級魔法を発現させていく。試験官が始めて魔法の指令を辞め紙に何か書いていた。


「次は気力だ。私が言った場所に気力を集めなさい」


 気力は得意だ。この世界の平均的な力もリサーチ済みでそれより少し強い力を出せばいい。


 俺は「了解です」と一言いい集中する。ここで重要なのは洗礼し過ぎたものは駄目だということ。少しお粗末でなければいけない。


 俺は言われた部位に気力を集めていく。周りの反応に意識を集中させながら適当に気力操作をする。


 何の反応も無く無事に試験が終わる。俺は試験官が終了を告げると軽く礼を言い立ち去る。



 成功だ。


 昂ぶる気持ちを抑え、落ち着いている風を装いながらトイレに向かう。

 トイレの個室に入ると気配探知を発動させ周りに誰も居ない事を感知すると両手を天に掲げる。両手を勢いよく下ろし両手ガッツポーズを作る。


「ダラァッシャーーー!!」


 狭い個室の中で俺の声が響く。


 人が見たら完全に変人だろう。


 だが、許してほしい。

 何年このために頑張ってきたというのか。何年時間を費やしたというのか。自分で自分を良くやったと褒めてやりたい。


 だが、いつまでもこの余韻に浸っているわけにはいかない。

 まだ合格したかわからない。


 もう少し上手くやればよかったと後悔が生まれるがあれが最善だったと自分に言い聞かす。上手くやり過ぎて前世の二の舞になったら自害しているところだ。

 俺は溢れ出る興奮を無理矢理抑え込み冷静になる。とりあえず他の受験生の魔法でも見るか。



 合格してますように。




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