第31話 英雄の魂
あれから何人かが精霊に選ばれた。ちなみにスズは選ばれてなかった。特に悔しそうな顔もしなくいつも通りのスズだった。
俺の番が近い。俺はアルト校長との会話を思い出す。
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エルフの里に行く前日、俺はアルト校長のいつもの部屋に来ていた。いや、最近は毎日来てエルフの里について色々と質問している。今日もそれが目的だ。
「精霊は何を基準で、何を見て選んでいるんだ?」
「魂ですね。精霊は生物の本質を見ます。つまり――」
「魂か」
「はい」
魂。前世では聞き慣れた言葉だ。1500年前は魔力やダンジョン何故生物は生きているのかなど多くの問題に魂が関わってきていた。
あ、そういえば――
「確か魂を見ることができたよな?俺の魂はどんな感じに見えているんだ?」
「そうですね……強大な魂です。そしてその力が鎖で縛り付けられているような感じですかね」
鎖か。
心の中でそう呟く。
まぁ納得する見え方だ。まぁ大して重要な事じゃない。重要なのは――
「俺は精霊に選ばれるのか?」
言葉を飾らないで率直に疑問を言う。シンプルだが最重要事項とも言っていいくらい重要だ。
「申し訳ありません。恥ずかしながら私達エルフは長年精霊の研究を続け真相に一歩ずつ近づいているのですがまだそこまでは辿り着いておりません。」
椅子から立ち上がり正式に謝ろうとするアルト校長を手で止める。
俺はため息が出てしまいそうになるが今出してしまうとアルト校長に勘違いされてしまうので力を入れ我慢する。
「まぁ仕方ないか。最低能力を使えばなんとかなるか」
正直なんとかなるかはわからない。俺の能力もそんなに万能ではない。試験の時は成功したが精霊に使うとどんな事が起こるなど想像もつかない。
「そうですか……ですが強い魂を精霊は好むわけではありません。以前私が用意した、強い魂を持つ他種族を精霊は選びませんでした。ですので選ばれない可能性も十分にあります」
可能性は十分にあるか……ただ選ばれる可能性もあると言うこと。選ばれてもいいのだがそれが変わった精霊にだと注目を浴びそうで怖い。強い精霊に当たる可能性もあるし逆もまた然りで弱い精霊もあり得る。一番良いのは選ばれないこと。つまり多数派につく事が重要だ。最善に全力を尽くす。計画を問題なく進行させるために。
俺は考える。何かいい方法はないか熟考する。考えに考えて思いつく。そもそも根本的な事を忘れてた。
「そもそも祈らなければいいんじゃない?」
そう。そもそも祈らなければいいわけだ。祈る演技をすれば生徒にはバレないしエルフにバレても根回しは済んでいる。
だがアルト校長の返答は俺の期待を裏切り滅多刺しにするような返答だった。
「あまり口にしてはいけない言葉なのですが……祈る事に意味は無いんです」
……ん?
「え?嘘だろ」
「いえ、本当です。古くからの伝統みたいなものであの儀式の方法は」
アルト校長が声を抑えて言う。天から垂らされた金の糸が簡単に切られたくらいの絶望感が俺を襲い下を向いてしまう。だがなんとかするしかない。これで失敗したら全部が終わってしまうわけでは無いが、最善に全力を尽くす。それが重要なのだ。
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次が俺の番だ。
精霊に選ばれるかわからない。現れた精霊に能力を使うとどんな現象が起こるかすらわからない。全ては運任せだ。
「次にアッシュ・レイジネスくん」
作業感が感じ取れる声に心臓が跳ね上がる。靴を脱ぎ息を大きく吐く。意を決して泉を渡るが、泉の水が冷たく、くすぐったく感じた。そこから感覚が敏感になっているのがわかる。
陸地に付き手を組み祈りを捧げてる。関係ないのはわかってはいるが一様祈りの演技をする。
数秒な筈だが静寂と緊張のせいかその時間は一生に感じられた。
大丈夫
大丈夫
大丈夫
大丈夫
大丈夫
「アッシュ・レイジネスくん終わりです。お疲れ様でした」
テノールが残念そうに俺に告げた。俺はテノールの気持ちとは裏腹に歓喜の声を上げそうになる。なんとか生き残った。
エルフの指示を受け元の場所に戻る。移動する際俺の顔には笑みが張り付いていた。
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