第46話 遺産

 昔、俺にも師匠がいた。と言っても数ヶ月の間だけだが。


 師匠は、かなりの年寄りで気力も魔力も平均より少なく扱いも正直下手だった。




 だが、強かった。




 師匠はただ純粋に最強を目指した男だ。


 ただ周りの者がよーいドンで走っている時に師匠はスタートラインにすら立っていなかった。


 そこには圧倒的で絶望的な才能の差があった。ただ師匠は諦めなかった。どんなに馬鹿にされようと、どんなに重傷を負っても、ただひたすら真っ直ぐに力を求め続けた。


 その道の最中、師匠はある技術を生み出した。いや、ある物を感じ取れる様になったと言っていた。


 ある物とは、相手の攻撃だ。言葉を変えれば、威力や、力、衝撃など相手のを感じ取れる様になった。


 そして師匠はそれを操る術を身につけた。


 そしてその技術を一歩ずつ階段を上るように向上させていくと、体はボロボロになり、年月をかけすぎたせいでかなり歳をとってしまった。


 気づいた頃にはもう前線では戦えない体になっていて師匠は自分の夢を諦めた。

 ただ、なんとか自分の技術を残そうと弟子を探し世界を周り歩いた結果、俺を見つけた。


 俺もあの時は今と違い力に貪欲でひたすら色々な技術を学んできた。


 そんな俺は師匠の話を断るはずもなく教えてもらうことになり、死ぬ気で覚えた。


 ただ、この技術は気力や魔法に頼り切った戦い方をしている俺にとっては向いてなかった。


 そして一ヶ月が経とうとしていた時、俺は遂に諦めた。



 今の、師匠のやり方は俺には真似できない。


 そう結論付け別のやり方を試した。そこで俺が編み出した方法は、得意の気力を使ったやり方だった。


 実際にやってみると、面白い程簡単に成功した。師匠は不満気だったが俺には無理だと悟ってしまったからしょうがないだろう。



 そしてこれからだって時に師匠は死んだ。


 数ヶ月の付き合いだったが、俺にとって大事な存在だったのだろう。少し悲しかった。


 そして俺はこの技術を実践で使う事は少なかった。

 理由は単純な事だった。まだ俺の技が未熟だったからだ。


 師匠の様に相手の攻撃の威力をそのまま返す事や倍にして返すなど、それくらいの域に達していれば使っていたかもしれないが、俺は達していなかった。


 俺ができる事は相手の攻撃の時の威力を流す事や、他の何かに身体を通して移すことだけだった。


 更に、俺はその事を集中しないと出来ない。その技を使うと視野が狭くなり一つの攻撃しか注目できなくなる。つまり俺がその技を使おうとしている時は隙だらけと言う事だ。


 だが俺はその技術を忘れない様に偶に練習するが全く成長しない。維持が精一杯だった。


 ただそれは考えてみれば当たり前の事だ。


 才能がないのに最強を目指した馬鹿が、たった一人で人生の大半を使って編み出した最強の戦闘技術。こんな短期間で師匠の域に達せられるわけない。




 非力な者が最強を目指すために編み出した技術。その名前は操力そうりょくという。




 &&



 そして現在。


 今、目の前で風を殴りつけた様な破裂音を鳴らして巨大な拳が俺に迫ってきてる。


 見れば分かるが、この魔人のこの攻撃は闘技場を施設丸々破壊する事が出来る一撃だ。


 どうするか。


 相手の気力に予備は無い、全て使っている。体勢も立て直す為の重心移動も捨てている。次の攻撃の準備や反撃される想定もしていないのも分かる。


 つまり、この一撃で殺せると確信しているな。


 他に誰かが俺を狙っている感じもない。そして、被害も最小限に抑えたい。



 ならアレ操力の出番だ。



 まず、片手を上げ魔人の拳を受け止める。受け止めるという表現は少し間違っているが、まぁいいだろう。


 そして気力で攻撃を移動させる為の道を体内に作る。

 入り口は、魔人に向いている片手で、出口は地面の奥底に木の根の様に沢山作っておく。



 そして魔人の拳が俺の手に当たる。





 だが何も起きなかった。


 地面が崩れたり、ひびが入る事も。攻撃を受け止めた際になる音や被害も何もなかった。ましてや俺が死ぬ事もなかった。まるで攻撃が俺の手のひらに吸収された様だった。


 ただ少し変化があるとすれば俺の片手が少し痺れた事と、俺が魔人にドレインタッチを使い全ての気力と魔力を吸い取り、



 とりあえずこの魔人は始末した。


 問題はここからだな。





 嗚呼、でもなんだ。


 何故か、少し、腹が立つ。

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