第34話 詐欺師

 小さな小屋の前に到着する。


 小屋の前にはエルフの長老――テノールとエルフの男一名と女一名の二名がテノールの背後に付き従っている。


 テノールは俺を見つけると頭を下げ挨拶をしようとするが俺は長くなると察し、ジェスチャーで止めろと送る。


「挨拶は必要ない。要件だけ言え」


 エルフの長に余りにも無礼な発言と行動だがそれを咎める者は誰もいなかった。つまり俺が誰が知っているという事だ。


「はい。英雄様にお願いがあります。どうか一人のエルフの少年の病気を治してくれませんか?」


「病気?」


 予想外過ぎて間抜けな声が疑問として聞き返してしまう。


「はい。エルフの技術や知識ではこれが何の病気かさえ判明しないのです。過去の文献などを見ても、何処にも症状が当てはまらなく恐らく前例が無いと見ています」


「症状とはなんだ?」


「常に魔力や気力が過疎状態になり、妹に一度魂を診てもらったのですが、黒い魂がまるで元の魂に寄生しているような魂をしているという事が判明し、それが原因じゃないかと……」


 黒い魂が寄生か。心当たりはある。だが完璧に治す自信は正直ないな。

 俺には助けれないと言って放置するのもありだが、もし俺が思っている病気いや、呪いならばエルフの里は壊滅する確率が高い。


 そうなると王国が学園がどうなるか見当がつかない。学園はエルフの友好的な関係を示すような物。エルフが壊滅すれば最悪の場合、学園が無くなってしまう可能性もある。


 俺はその可能性を考慮して結論を出す。正直この結論は俺がビビった結果だろう。


「とりあえず見てみよう。その病人はこの小屋の中だろう?」


「ありがとうございます!そうですね。この小屋の中です。その人物の情報は――」


「いらん」


 俺は一直線に小屋に行き迷いなく扉を開ける。


 扉を開けると木造の建物独特な匂いと、少し埃っぽい匂いがしたがあまり気にならなかった。

 中は、ある程度の暗闇なら見える俺だが月明かりも無く一つの光源も無い真っ暗な部屋の中、特に奥の方は何も見えなかった。


 その為俺は初級魔法ライトを使う。ライトは一つの丸い光源を生み出す事ができ、その明るさは自由に操れる。そして、魔力消費量、技術や知識は、ほとんど必要なく初級魔法の中でも下位、生活魔法とも言われている。


 ライトで生み出した光の球がフワフワと奥の方に行き部屋を照らす。生活に必要な家具が壁にくっつく様に配置ており娯楽のオモチャな様な物が床に乱雑してある。


 だがそんな物は大して気にならなかった。何故なら更に目が行く者があったからだ。

 それは、一人の――恐らく――少年だ。肌は日光に長い間浴びてないのか病的に白く、髪は最低限の手入れはしてあるがそれでもボサボサだ。

 目が髪で隠れているから分からないがこちらを見ている。俺は出来るだけ刺激しない様に話しかける。


「やぁ。僕の名前はアッシュ・レイジネス。アッシュって呼んでくれ。君の名前は?」


 そう尋ねるが少年は下を向きボソボソと口の中で喋る様に言っている。よく聞いてみると俺の名前を反復して言っているようだった。


 しばらく経ち少年は意を決したのか、下を向いて顔をバッと顔を上げ、俺を力強く見るが緊張しているのが分かる。ここらの情報から察するに少年は、長い間誰とも会っていなかったのだろう。


「えっと、その、ぼ、僕の名前は、テール、です。その、よ、よろしくお願いします」


 緊張からか声が上擦るが名前は分かった。テール君な。まずは緊張と警戒を最低限解くところからだな。


「テール君は――」


 俺は床に座る。テール君を少し見上げる形になった。


「何でここにいるのかな?」


 そして怯える子供を嗜める様に優しく問いかける。長い間、気を張って会話してきたから出来る会話術だ。前世の俺には出来なかっただろう。


「分からない。お母さんと、お、お父さんが死んじゃって、そこから、えっと、ずっとここにいるの」


「そうか……そうだな。君はどうしたい?」


「分からない……」


「そうだな。なら、具体的に聞こうか。君のやりたい事は?夢は?」


「夢……え、えっと、普通にお母さんとお父さんとお喋りしたり、外に、出て皆んなと遊んだり、それから、それから、前みたいに普通になりたい」


 普通か、いい夢だ。俺も何度望み何度諦めたか。そして今、目指している俺の最終目標だ。


「それは、いいな。そうだね。普通程素晴らしい物はないよね」


「うん!」


 テール君の表情や声が柔らかくなり笑顔が生まれてくる。まだ、言葉がたどたどしいがそろそろ良いだろう。俺はタイミングを見計らって本題を切り出す。


「テール君。ここから少し真剣な話だけどいいかな?」


「う、うん」


 テール君の了承を確認して切り出す。少し緊張地味た声をだす。


「まず自分が病気を患っている事は分かるかい?」


「う、うん。皆んながそう言うから」


「治したい?」


「な、治るの!?」


 少し声を荒げ身を乗り出すテール君の目を見ながら答える。


「うん。僕が治す」


「ほ、本当に!?約束してくれる?」


「あぁ、約束するよ。本当だ」


 俺はテール君の頭を優しく撫で落ち着かせる。


「ただ、治すには君の意思の強さも必要だ。病気に抗う強い意志があれば直ぐに普通の生活に戻れるよ。がんばれる?」


「う、うん。がんばる!」


 雑談最中に調べたが俺が思っている呪いと同じだ。前世で俺が治した物と同じ物だがこちらの方が強力だ。何よりこの呪いには知恵がある。


「じゃあ、ちょっとベットに横になってもらえる?」


「うん」


 テール君が大人しく従い横になる。横に倒れるとベットがそれを受け止め、音が鳴り響く。


「腕、触ってもいい?」


 テール君が一回頷くのを確認し腕を掴む。子供だから仕方ないと言う理由じゃ収まらないくらい細い腕だ。恐らく過疎状態が原因だろう。


 俺の腕を伝い、手に渡って、テール君の腕に入り魂に繋がる。

 そこから俺の支配の能力を使い、魂の俺――つまり精神体を送り込む。俺の意識が遠のくのが分かる。いや、これは何かに接続される感覚だ。


 思考がまとまらなくなってくる。


 死にませんように。


 最後にそう願った。

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