第45話 ソラ君 緋色のマント

「はやっ、もうメロス、シラクスの処刑場所に着いたの?」

「ラキ知らないの?メロスの故郷とシラクスの距離は10里だよ。40キロの距離だから、さっきの場所からあっという間なんだから」

 美月はよく知っている。その後、メロスは走ってないかもって笑った。歩けメロスだ。



 画面に縄を打たれたセリヌンティウスが登場した。メロスより金髪で髭をたくわえた背の高そうな男の人だ。人質になるくらいだから、お人好しなんだろう。


 セリヌンティウスがはりつけの柱につり上げられていく。民衆の中をかき分けているメロスが映る。

「私だ!殺されるのは私だ!人質にした私はここにいる」メロスの叫び声だ。


「そうだよ、お前だよ!」

セリヌンティウスの足にかじりつくメロスの背後にソラ君が立っている。


 民衆の声が一瞬止み、すぐに、「そうだ、メロスをはりつけろ!メロスを処刑しろ。あいつを殺せ」に変わった。


「えっ、このあとセリヌンティウスとメロスがお互いを殴りあって、王様が謝るんじゃないの?」

 私はさすがにラストシーンは覚えていた。ソラ君物語変えちゃうよ!早く止めなきゃ。


 顔面蒼白なメロスが映った。

「おお、友よ!ありがとう友よ!」

 セリヌンティウスの縄がほどかれ、変わりにメロスが縛られる。

 王様も目を白黒させている。暴君ディオニスも最初から殺すつもりがなかったかのようだ。


「メロスにもの申す!」

ソラ君が、つり上げられていくメロスに向かって声を上げる。

「メロス、お前本当は死ぬのが怖いんだろう?」

「……そんな事はない。これが約束だ」

「ふーん、それならば信頼してくれた友の前でゆっくり死ぬんだな。政治も分からないのに口を出した罰だ。一般庶民と王の疑心暗鬼はレベルが違う。いつも暗殺に怯えて生きている王の気持ちが分かるか?」


 王様も顔面蒼白になった。まさか突然馬に乗ってやって来た若者に感情移入されるとは思ってなかったのだろう。青い顔がすぐに赤くなる。


「若者、そこの若者よ、メロスは約束通り陽が沈む前に戻ってきた。許してやってくれ」

 王様も大声で叫ぶ。民衆の総意を無視してメロスの命乞いをする王様に驚く私。


「王よ、メロスは王を暗殺しようとした男です。あんな奴を生かしておいていいのですか?」

「あれは私の勘違いだった。妹の結婚式のための剣だったそうだ」

「王よ、メロスはここに来る間に犬を蹴飛ばし殺しています。飼い主の老人もメロスとぶつかり打撲を負いました。死にかけております。自分の自己満足の故に、セリヌンティウスの心もかき乱しました。あんな男、死に値する。王よ、ご決断を、メロスを処刑して下さい」


「コロセ、殺せ、殺せ」民衆の声が大きくなる。

「王よ、民衆は人の死ぬところが見たいのです。なぜなら、王よ、貴方は人を信じる事が出来ず、身内さえも殺した。そんな貴方の暴虐に民衆は心の平安を得ることの出来ない毎日を過ごしております。王よ、今こそ貴方の本性を知ってもらうときが来ました。メロスを処刑して下さい」


 ソラ君、大胆だ。下手したらソラ君が王の怒りを買って殺されるかも知れない。


「メロスを降ろせ。メロスを無罪にしろ」

王が叫んだ。


「万歳、王様万歳」突然、女の子の声がした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る