第17話 バイトなのに?

 美月も私もソラ君の顔を見つめた。美月の夢を叶えられるとソラ君は保証してくれた。


「……もしかしてけい兄ちゃんをタイムトラベルさせて、ピカソやゴッホに絵を教えてもらうの?」 美月が思い付いたように聞く。


「それも考えたけど……。あっ、さっきメールでマニュアル送るって言ったでしょ。今、時間ある?」 時計を見ながらソラ君が聞く?


 午後6時だった。<こはいかに>に入ってから二時間しか経っていなかった。ケーキを食べてる時間の方が長いかもしれない。


「私は大丈夫だよ。お母さんからバイト頑張ってねって応援されたくらいだから」

「私も帰りは遅くなるって言ってあるよ」

 美月と私の返事を聞いて、ソラ君は大きなテレビ画面を見るように指差した。そしてリモコンのボタンを押す。画面にあの女性が現れる。


『では、<こはいかに>の雇用契約及び、報酬制度についてご説明申し上げます。相曽美月様、小鳥遊ラキ様、メモのご用意はよろしいですか?……はい。勤務時間についてです。ご自分の都合に合わせていつでも大丈夫です。時空を超えますので現代の時間とは異なります。

 10時間過ごしても、現代に戻ると一時間も経過していないでしょう。1週間に3日でも、毎日でも勤務していただけます。<こはいかに>の開店時間は24時間です。お好きな時間にお越しください。次に、報酬つまり、あなた様達にお支払する給料の説明です。時給制ではありません。カウント制になっております。詳しくご説明申し上げます。<こはいかに>のチャンネル登録者は全世界におります。イタリア語、英語、日本語だけでなく、その登録者の方の言語で同時通訳されます。その視聴者様の感想によって報酬が決まります……] ピッ。

 メモを取るのが追い付かなくて、ソラ君が一時停止にしてくれた。


「ここからは俺が説明するね。トランプ分かるでしょ?ハート、ダイヤ、スペード、クラブがあって、数字がある。どんな物語でどんな質問をしたのか、それで評価されるんだ。一番高い評価はハートのキングで、最悪なのがスペードのエースになる。例えば、この前の蜘蛛の糸なんだけど、ダイヤの六が多かったかな。日本人の評価はスペードの3が多かったよ」

 美月も私も、よく分からなかった。

「世界中の視聴者に評価されるのは分かったけど、まさかその評価でバイト代が決まるの?」


「正解です。よく分かったね。で、コメントも反映されちゃうんだよ。……はっはッはッ」

 ソラ君が少年のように笑い出した。

「俺の蜘蛛の糸、お叱りコメント多かったな。斬新な考えを肯定するコメントもあったけどね。本部で集計されてメールが届くんだよ」


「面白い。じゃあ、私のさっきのタイガーマスクとのやり取りや、私の考えにコメントがくるんだ。楽しみっ、いつ来るの?」 美月はなんてポジティブだろう。キャッキャッしている。私は一気にテンションが下がる。

「そうだね、一週間位かな。で、1か月ごとにバイト代が振り込まれるってわけ」


「今までソラ君はいくらもらったの?」

 今度は私が質問した。やはり、初めてバイトして自分のお小遣いになるから、そこは楽しみだ。毎月、親からのお小遣いは五千円だ。高校生になってからは、少し多くもらえるかもしれないけど、欲しいものがたくさんあるから。


「……今まで三回振り込まれたけど、平均すると、3百万位かな」

「さっ、さん、……さんびゃくまんえん?」

 美月と私は同時に叫ぶ。美月は食べ出していたケーキにむせた。私は耳を疑った。


「バイトなのに?そんなにもらえるの?」

 また美月と同じ言葉を叫ぶ。声を揃えて驚き叫ぶ私たちを見て、ソラ君はゲラゲラ大笑いした。

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