第13話 美月 タイガーマスク

「タカナシラキサン モウシバラクオマチクダサイ アイソミツキ シツモンチュウ」


 パソコン画面に美月が写っている。私より先に行ったと思っていたのに。時計を見ると、あれから20分位しか経っていなかった。


「タイガーマスクさんにお尋ねします。あなたがタイガーマスクになったいきさつは漫画を読んで知っています」


私はタイガーマスクの漫画を知らない。っていうか、漫画の主人公とも話せちゃうの?


「私の父親の部屋に、全巻そろってあるのですが、私はまだ半分も読んでません」


 美月は質問というより、タイガーマスクを知った自分の話をしている。私はヘッドホンから聞こえてくる美月の声から緊張を感じ取った。


「動物園の虎の檻の前で、中学生をぼこぼこにし、虎の穴にスカウトされましたね?」


 画面に美月のアップ。唇は震えているが、目がキラキラしている。憧れのアイドルを前にした顔だ。思わず美月がんばれと応援する。


「その虎の穴で悪役レスラーになるため、厳しいトレーニングに耐えました。今、あなたは正統派レスラーとして、悪役を倒しました」


 アングルが切り替わり、リングでのびている外国人レスラーが映る。「キャッ、ひどい」私は思わず声を出し、手で顔を覆う。額や鼻から出血している。美月はずっとこの試合を見ていたに違いない。


「正統派レスラーになっても、反則ギリギリの闘いかたは卑怯だと思います。あなたの勝つための目的や、もしマスクを取られてしまった時のあなたの生き方はどう変わるんですか?」


アングルがタイガーマスクになる。

「威勢のいい娘さんだね。こんな残酷な試合を目の前で見ていた度胸は買うよ。悪役から正統派になったのは、ジャイアント馬場さんのお陰さ。俺には守るべきものがある!……その為に勝ち続けなければならない」


これが噂のタイガーマスクなんだ。それよりも漫画の世界なのに、美月も、タイガーマスクも観衆もみんな実写だ。


「マスクを取られたら、その時はその時考えるよ。だが、君ならどうする?」


「マスクは覆面レスラーにとって、命と同じだと思うんです。それを剥ぎ取られるのは死ぬのと同じ事だと思います。私ならマットを去ります」美月の真剣な表情を見たのは久しぶりだ。


「俺もそうするかもしれない。しかし、今は愛するべき人達の為に闘う!」


「アイソミツキ、コハイカニ?] 美月にもやっと<こはいかに>がきた。私は固唾をのんで見守る。



 

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