第12話 笠地蔵登場
叩けばほこりが出そうな煎餅布団に寝て、これまた薄い掛け布団をかける。
花音ちゃんなら喘息出ちゃうだろう。
ドン、ドドドド、ドーン。ズンズズン、ズズズズーン。
眠りに落ちかけた時に、外からすごい音がした。
「お爺さん、お婆さん、起きて下さい!来ましたよ。来ました。お地蔵様の登場です。……起きて下さい」 私はすぐ隣のお婆さんの肩を揺らす。お婆さん、何事かと目をこしこししている。
「ヒエッ、あんた誰ね?お爺さん、起きて」
今度はお婆さんがお爺さんの背中を叩く。
ドーン、ズン。大きな音が止んだ。3人であわてて外に出ると、お地蔵さん達が背を向けて帰っていく。一番小さいお地蔵さんが振り返ってちょこんと頭を下げてこちらにあいさつした。
目を下にやると、米俵や、巾着が沢山置いてある。
「……たっ、たまげたぁ」 お爺さんがしりもちついた。
「とにかく中に運びましょう」 私は巾着の中にきっと小判や餅が入っているからと、家に運ぶようにすすめた。
「ほいだらなにけ?夕方の笠のお礼に、お地蔵様達がワシらに餅持ってきてくれたんかいの」
「……信じられんだがね。もったいねえ」
私の説明にお爺さんもお婆さんも、手を合わせている。何ていい人達なのだろう。
「どこかにしまっておきましょう。この小判があれば、綺麗な着物も買えるし、食べ物に困らないですよ。早く隠しておきましょうか」
ずっと手を合わせる二人にいらだちながら、私は催促した。誰かに見つかったら大変だ。
「……ありがたや。けどワシらこんなにいらんで、娘さん持ってきなさい」
お婆さんが私の手にお餅が入った巾着を握らせる。そして小判を10枚入れてくれた。
「いや、私は要りません。私の住む時代は紙のお金なんです。こんなに小判があれば、もう働かなくてもいいし、一生楽できますよ」
「ワシらもう欲しいものないで、1枚あればいい。老い先も短いし。……そうだ、ラキさんて言うたかね、明日の朝、村のみんな呼んできてくれんかのぉ?」
まさかみんなに配るのだろうか?
「……お爺さん、いい事思い付きましたね。ワシら自分の掌に乗るだけの分があればいいだで。あんまし、乗せるとこぼれてしまうらぁ、こぼれる分は人様にやりゃあいい。……明日みんなに配りましょ」 「そうだね、婆さん」
お婆さんも、お爺さんもにこにこしている。目の前のお宝の山を惜しくないのか、不思議になった。
「小鳥遊ラキ、こはいかに?」突然声がした。
私は我に返って、目の当たりにしているお婆さんの笑顔を見て考えた。
「本当にお婆さんは、お爺さんのしたことを心から良いことだと思っていたのが分かりました。お地蔵さんが運んできた物も人に分け与えようとしています。すごい事だと思います。お爺さんが、お地蔵さんに笠を被せられたのは、物欲のないお婆さんの影響だと分かりました。
昨日、今日の考えではなくて、若い頃からの価値観が同じだから、ケンカもしないでいられたのだと思います」
独り言を話す私を、お爺さんもお婆さんも目を白黒させて見ていた。
「たとえ貧しくても、心の豊かさがあれば幸せなのかもと思いました」
「小鳥遊ラキ、現代にお戻り下さい!」
<こはいかに>と言うと、体に衝撃が走った。私はきっとまたタイムスリップしているのだろう。さよならお爺さん、お婆さん。目を閉じて小声で呟く。
気がつくと、<こはいかに>の店のカプセルNo.12の中だった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます